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影響分析・提言等 [2021年1月~4月末]
  • 日本の「国産ワクチン事業」があまりに遅い真因 「過保護なワクチン政策」では国民は守れない 久住 英二 : ナビタスクリニック内科医師 2021/04/28 13:00 東洋経済online
    • 国産の新型コロナワクチンは開発過程にも、また実用後のビジネス的観点でも、問題が山積している。現在、新型コロナに限らず日本がワクチン輸出国になれていない理由は2つある。
    • 1つは技術の問題だ。製薬OBに話を聞くと、「日本はアジュバントの技術が決定的に欠けています」という。アジュバントは、ワクチンの効果(免疫原性)を高めるために添加される物質だ。生ワクチンが主流だった頃はそれだけで強い効果が得られたが、病原体の一部の成分のみ精製して接種する昨今のワクチンは、安全性は高まったがそれだけでは効き目が弱い。そこでアジュバントが必須となる。
    • もう1つの問題は、やはりコストと価格だ。状況を客観的に見る限り、国産の新型コロナワクチンはビジネスとしての成立は困難だ。海外向けワクチンを開発できないジリ貧のワクチンメーカーを、税金をジャブジャブ投入して延命しても、先は見えている。過保護な政策が、国内メーカーの国際競争力を奪ってきたことは、さんざん言い尽くされてきた。特に日本が大転換のチャンスを逃したのは、新型インフルエンザの時だろう。
      • 唯一の新規参入メーカーだったUMNファーマは2014年、細胞培養より一歩進んだ、昆虫細胞とバキュロウイルスを使った遺伝子組み換えワクチン(ウイルス様粒子[VLP]ワクチン)をPMDA(独立行政法人医薬品医療機器総合機構)に承認申請した。鶏卵培養だとワクチン製造に約半年かかるところ、この方法なら1~2カ月に短縮できる画期的技術だ。ところがPMDAは明確な理由を示さないまま、UMNファーマの申請を3年間放置し、同社は2017年に取り下げを余儀なくされた。こうして遺伝子組み換え技術による次世代のワクチン開発は、国内では大きく停滞したのだ。
      • そのツケが回ってきたのが新型コロナである。昨年1月、新型コロナワクチンは鶏卵培養による開発が困難であることが判明した。
    • 反省すべき1つ目は、「なぜこんなに海外ワクチンの供給が遅れているのか?」だ。国内での臨床試験だ。ファイザーのワクチンは、英国では12月上旬に接種が開始されたが、日本は国内で改めて臨床試験を行い2月中旬にやっと承認された。すでに約4万人の被験者で安全性と有効性が示されたワクチンにもかかわらず、平時の手続きに固執した結果だ。
      • EUから日本に出荷された中には、ファイザー以外にモデルナやアストラゼネカのワクチンも含まれるだろう。両社のワクチンは国内承認が下りていない。要は、供給が遅れているのではなく、実際の遅延要因は薬事承認ではないのだろうか。まずは、国内の無意味な障壁を取り除くべきだ。
    • 2つ目の課題は、「なぜ日本では海外のような創薬ベンチャーが育たないのか?」だ。新型コロナワクチンでは、ファイザーがmRNAの生産能力を高く評価して共同開発パートナーに選んだビオンテックも、GSKが多価ワクチンの共同開発を決めたキュアバックも、いずれもドイツのバイオベンチャーだ。
      • ワクチン開発は数百億円規模の事業である。国からの“過保護”な交付金に頼らずにワクチン開発を行うなら、民間から調達しなければならない。海外ではVCがそこを担っているのである。だが、日本の創薬ベンチャーは海外の機関投資家からも相手にされていないという。
    • 海外向けワクチンやその技術開発を志向するしかない。予防や治療方法が未確立の感染症のワクチンを開発する、もしくは、アジュバントやmRNAなど、これからのワクチンに必要な技術において強みを確立する。そこに海外からの投資を得て、交付金ビジネスからの脱却を目指すべきだ。
    • 完全にグローバル化したワクチンビジネスの中で取り残され、自立もできない国内メーカーと、その現状をもたらした政策を、今度こそ大転換させるしかない。
    • 関連:【特集】国産コロナワクチンいつ実現?開発に出遅れる日本…海外との差の理由 4/13(火) 15:52配信 Yahoo! Japan ニュース
    • 関連:日本のワクチン接種遅れに批判強まる-大量のEU製が承認済みと発覚 2021年4月30日 16:59 JST Bloombelg
 
  • アンジェス製の国産コロナワクチン、実用化を阻む厚労省…早期承認競う世界の動きと逆行 藤和彦/経済産業研究所コンサルティングフェロー 2021.04.27 05:55 Business Journal
    • 「国ごとに変異株が出現する可能性があり、国産ワクチンの開発は喫緊の課題である」 このように主張するのは、森下竜一大阪大学教授である。
    • 日本製ワクチンの印象が薄い昨今だが、森下氏が率いる大阪大学発ベンチャー企業アンジェスは昨年3月から新型コロナウイルスのワクチン開発を開始した(開始時期はファイザーやモデルナなどと並んで世界で最も早かった)。開発しているワクチンのタイプはDNAワクチン。遺伝子治療薬の開発に成功しているアンジェスはその経験を生かして世界初となるDNAワクチン開発に取り組んでいるが、その有効性はもっとも高いとされているメッセンジャーRNAタイプのワクチンに比べて若干劣るものの、安定性に優れ保管が容易であることから、大きな期待が集まっていた。
    • 厚生労働省所管の医薬品医療機器総合機構(PMDA)が昨年9月に公表した新型コロナワクチンの評価方針で数万規模の治験を求めたことから、アンジェス製ワクチンの早期実用化は暗礁に乗り上げてしまった。
      感染者数が少ない日本で数万人単位の治験を行えないことから、海外での治験が不可欠となるが、今年夏から海外での治験を始めたとしても、終了は来年以降になる(3月21日付日本経済新聞)。
 
  • シンガポールが首位浮上-新型コロナ時代の安全な国ランキング Jinshan Hong、Kevin Varley、Rachel Chang 2021年4月26日 18:08 JST Bloomberg
    • 新型コロナウイルス感染症(COVID19)を巡りブルームバーグがまとめる世界で最も安全な国・地域の番付「COVIDレジリエンス(耐性)ランキング」で、4月はシンガポールがニュージーランドを抜いて首位に浮上した。感染を抑える措置とアジア太平洋地域の中では迅速なワクチン接種の組み合わせが奏功した。
      • 1位:シンガポール、2位:ニュージーランド、3位:オーストラリア、4位:イズラエル、5位:台湾、6位:韓国、7位:日本、8位:UAE、9位:フィンランド、10位:香港
      • COVID耐性ランキングは幅広いデータを用い、社会・経済への影響を最小に抑えつつ最も効果的な新型コロナ対応を取っている国・地域を特定する。死亡率や検査率、ワクチンへのアクセス、移動の自由などを勘案する。国(域)内総生産(GDP)2000億ドル(約21兆6000億円)超の国・地域を毎月比較する。
    • シンガポールは国境の管理と厳しい隔離プログラムによって、国内で感染した人をほぼゼロまで抑え込んだ。日常生活はほぼ通常通りとなり、コンサートや周遊クルーズを楽しむこともできる。国民のほぼ2割がワクチン接種を終えており、ニュージーランドやオーストラリア、台湾はこの点で後れを取っている。
    • 4月の結果はワクチンだけでは新型コロナのパンデミック(世界的大流行)を終わらせることができないことを示した。
    • フランスやチリなどワクチン接種が進んでいる国も変異株の感染が拡大し順位を落とした。ワクチンの供給が不十分で感染抑制の取り組みも失敗している開発途上国で変異株の発生が増えている。全世界では10億回以上のワクチン接種が行われたが、貧困国には十分に行き渡らない。インドは世界の感染者数を押し上げる中心になっている。
 
  • コロナ危機と行動変容 東京大学大学院経済学研究科教授 渡辺努 個人金融 2021年春号 一般財団法人ゆちょ財団
    • 欧米や中国では政府がロックダウン(都市封鎖)を行った。これに対して日本政府の措置は「要請」に過ぎない。要請では不十分で、法的拘束力のある措置をとるべきという意見が少なくない。しかし各国の介入政策の検証結果はこうした見方が適切でないことを示唆している。
    • Watanabe and Yabu(2020)によれば、日本の緊急事態宣言の外出抑制効果は 8%である。これに対して米国のデータを用いた検証では外出抑制効果は 7%である。つまり、法的拘束力があるにせよないにせよ、政府による介入的な措置は、一般に信じられているほどの効果はない。
    • では何が効くのかといえば、人々の感染に対する恐怖心と、それにもとづく自発的な行動変容だ。人々は感染に関する情報を入手し、それをもとに外出すべきか否かの判断を自ら行っている。各国の検証結果でも、人々の外出が日々発表される感染者数や死亡者数に敏感に反応することが明らかになっている。
    • 行動変容に必要なのは政府による強制措置ではなく、感染状況に関する正確な情報提供である。
 
  • 世界経済見通し (WEO) による最新の成長率予測 広がる復興の差 回復を進める IMF 2021年4月
    • コロナ禍に伴う混乱や政策支援の規模が多様であったことを反映して、各国間や業種間で経済回復に差が生じ、その差が拡大しつつあります。今後の見通しを左右するのは、ウイルスとワクチンのスピード競争の結果だけではありません。不確実性が高い中で実施された経済政策がどれほど効果的に未曾有の危機による長期的な損失を抑え込めるかも大きな影響をもたらすことになります。
    • 世界経済の成長率は2021年に6.0%を記録し、2022年には4.4%までペースを緩めると予測されています。この2021年と2022年の予測は、2020年10月「世界経済見通し」の数字よりも引き上げられています。この上方修正は、一部の経済大国における追加の財政支援や、年後半にワクチン接種効果による景気回復が期待されること、移動量の低迷への適応が続くことを反映したものです。パンデミックの今後の展開や、ワクチンが牽引する経済活動の正常化が進むまでのつなぎとなる政策支援の有効性、金融環境の動向に関連して、予測を取り巻く不確実性は大きなものとなっています。
 
 
  • デジタルが導く新たな地方創生の方向 (株)野村総合研究所 コンサルティング事業本部副本部長 兼 未来創発センター副センター長 研究理事 神尾 文彦 2020 No.2 調査研究情報誌 (公財)えひめ地域政策研究センター
    • 日本のデジタル政策は、ICT基盤整備・利活用の段階から、行政・社会のデジタル化(デジタルガバメント)へと移ってきた。その中で、地方圏では、担い手の減少、生活サービスの維持、見守り機能の充実など特有の課題(守り)を克服するだけでなく、地域の活力を維持・増進する基盤(攻め)としてデジタル技術を有効活用することが求められる。そのために、全国レベルで進むデジタル基盤と連携した独自性あるデータ・システムの構築、地域課題に直結したデータの利活用、地域内でのデジタル産業と人材育成の推進、などに留意して進める必要がある。地方創生の実現にあたっては、ローカルハブと称される独立都市圏でのデジタル化を進め、その効果を周辺地域に波及させていくことも重要な視点だ。当面の取組みとして、デジタル戦略の構築・共有と産学官によるプラットフォームの活性化が求められよう。
    • デジタル化が進めば進むほど、地域が抱えるリアルな課題を克服するという明確な意図が必要であり、デジタル化のスピードに対抗するためには、全体の構想と俯瞰的志向が求められる。もっともスピードが速く、技術革新が相次ぐデジタルの特性に流されない姿勢も重要である。地域の資源や独自性をじっくり検討し、中長期的視点から地域のビジネスや人材を育てることに力点を置くことこそが必要ではないだろうか。
 
  • コロナ禍における地域政策の選択肢 北海道大学法学研究科・公共政策大学院 教授 宮脇 淳 2020 No.2 調査研究情報誌 (公財)えひめ地域政策研究センター
    • 新型コロナウイルスの感染は、愛媛県の自治体経営や地域経営に対して深刻な課題を投げかけている。その投げかけは、地域の経済社会が新たな「ルイスの転換点」に直面し、今後の持続可能性の確保に向けた分岐点にあることを意味している。英国経済学者アーサー・ルイスの指摘したルイスの転換点とは、本来は地方部から都市部への人口移動において経済社会の自立的な高付加価値化が伴わない場合、それまで経済的に成長してきた国も中所得国への罠に陥り、所得水準が低下し持続可能性が限界に達することを指摘したものである。生じている現象は異なるものの、変化に対して適切な対応を怠れば持続可能性が限界に達する意味で、今回のコロナ禍も同様の環境にある。
    • その不可逆的な変化を認識しない政治行政の対応が続くほど、地域の実態や住民生活との乖離が深まり、地域の持続可能性の確保が困難とならざるを得ない。構造的変化を前向きに捉え、自治体経営を進化させる中で地域を考えるか、それとも従来同様の構図に軸足を置いて展開するかで地域の持続可能性確保は大きな岐路に直面する。そうした岐路に対し、政策の方向性の良し悪しを自立的かつ明確に地方自治体自ら決断し示すことが今まで以上に求められている。
    • アフターコロナに向けて求められる地域政策の質は、地域の利害調整による利益配分ではなく、地域価値の創生である。価値創生の議論で重要なことは、①単純な地域間競争に陥らない構図を意図すること、②新たな価値の創生だけでなく、地域の負担軽減も同時に意図することである。
    • コロナ禍の自治体間に必要な競争は、相互に排除する排他的劣位競争を展開することではなく、相互に政策共有し協働できる仕組みを開発する創造的優位競争の展開である。そこでは、形式的・外見的な平等主義、利己的地域主義により相互に排除し合う競争ではなく、自治体間の特性や体力の違いを積極的に認識・活用し、相互に補完し役割分担する「連坦」のネットワーク形成を重視する競争が重要となっている。
    • 持続性ある地域のブランド形成で重要なことは、スローブランドである。スローブランドとは、一過性のイベント(ファストブランド)ではなく、地域住民の日常生活も含めた地域全体の価値観の形成によるブランドの確立である。もちろん、ファストブランドの形成が不必要なのではなく、イベント等ファストブランドにより形成する「人と人との結び付き」を、一過性で終わることなく地域住民と共に共通の空間として溶け込ませることが重要となる。そのスタートラインで求められる点は、地域の経済社会への「良質な観察」である。
    • 地域の持続可能性の確保に向けて不可欠となる点は、第1に「自助・共助・公助を基本とするコミュニティの新たな姿」であり、第2は「地域コミュニティとグローバル社会も含めた相互浸透による内発型の構築」である。これにより、圏域も含めた地域内循環と地域所得を厚くする地域空間の土台を充実させることが重要となる。地域の持続可能性の確保に向けて不可欠となる。
    • コロナ禍においてルイスの転換点をもたらす大きな要因として、DX政策がある。DXによる変革は、たとえば行政組織においては従来認識されていない非効率な行動様式、あるいは当たり前として無意識化した行動様式の見直しを根本から求める。その取組みにおいて重要な点は、「能率性と効率性の違い」を認識することである。能率性とは一定の時間内に実施できる作業量を拡大させることであり、従来のプロセスを基本的に維持しつつ機械化や自動化などを進める点が主な手段となる。これに対して、本来効率化とは単に作業量を増やすだけではなく、そこから生み出す価値、すなわち「付加価値」を高めることを意味する。したがって、従来のプロセスではなく、プロセス自体を見直す視点が必要となり、その際に人間行動だけでなく職域のあり方も見直しの課題となる。地域や地方自治体の行政組織でも従来のルーティンワークがデジタル化の仕組みに移行し、さらにDXの流れから労働力の転換が求められる。
 
  • コロナ禍1年の仕事の変化-約4分の1で収入減少、収入補填と自由時間の増加で副業・兼業も ニッセイ基礎研究所 2021年04月20日
    • ニッセイ基礎研究所の3月末の調査では、20~60歳代の社会人のうち、コロナ前と職業や勤め先が変わったのは9.5%で、うちコロナ禍の影響によるものは3.9%である。非正規雇用者や自営業、飲食業等の従事者では仕事が変わった者が比較的多く、経営者や管理職、高年収層、運輸業従事者等ではほぼ変わっていない。
    • コロナ前と比べた収入増加層は6.6%、減少層は24.8%である。減少層は自営業や非正規雇用者、飲食業等の対面型サービス業従事者で多い。なお、自営業は約半数、非正規雇用者は約3割、サービス業従事者は4割前後で就労収入が減少しており、深刻な状況がうかがえる。
    • 現在の副業や兼業従事者は14.7%で、うちコロナ禍の収入減少によるものは3.7%、自由時間が増えたことによるものは2.7%である。コロナ禍で増えた副業や兼業の背景には、減少した収入の補填といったやむを得ない状況に加えて、テレワークで自由時間が増えたことを契機とした前向きな状況もうかがえた。
    • コロナ禍で一層、「ギグワーカー」が増えているようだが課題も多い。個人事業主となるため、最低賃金や労災保険など雇用契約を前提とした労働者保護の仕組みが適用されず、契約上の格差も懸念される。関係各所でギグワーカーを守るインフラ整備を進めることで、日本でもデジタルを土台とした労働市場が成長していくのではないか。
 
  • リスクコミュニケーションで皆が望む社会をめざす 対談・座談会 武藤 香織,田中 幹人,奈良 由美子 2021.04.19 週刊医学界新聞(通常号):第3417号より
    • 厚労省や内閣官房,東京都などの行政機関でCOVID-19対策に深くかかわる3氏が,リスクコミュニケーションの実践と課題を多方面から議論した。(2021年3月2日Web収録)
    • リスクコミュニケーションとは、「個人・機関・集団間で,情報や意見のやり取りを通じてリスク情報とその見かたの共有をめざす活動」と考えています。リスクコミュニケーションでは関係者間の信頼関係をベースとして,意見や考えをすり合わせてリスクを最小化していきます。
    • 併せて大切なのは,リスク評価とリスク管理の役割に目を向けることです(図1)。リスク評価とは,専門家などが客観的なデータを基にリスクの発生頻度や大きさを見積もったもの。一方、リスク管理とは,政治家や行政機関が必要な措置,施策,制度に関する判断を下し,それを実施してリスクを小さくするものです。リスクコミュニケーションは,リスク評価とリスク管理を結び付けて,リスクに関する意見をすり合わせる機能を果たします。
    • 市民に対する教育・啓発や行動変容の喚起を促すプロモーションは重要です。しかしCOVID-19のような複合的かつ多くの関係者が含まれるリスクでは,価値中立的に意見を聞いて一緒に考える合意形成や信頼醸成をめざすコミュニケーションが中長期的には欠かせないと思います。
    • 政府と専門家の役割を整理するため,6月24日に政府に旧専門家会議の解散を申し入れました。その上で田中先生にもかかわってもらい「次なる波に備えた専門家助言組織のあり方について」2)を取りまとめて政府に提案しました。リスクコミュニケーションに関する要点としては,①専門家助言組織はリスク評価として現状の分析と評価から政府に提言を行うこと,②政府はその提言を基に責任を持って政策を実行すること,③リスクコミュニケーションは専門家協力の下で政府が主導することです。ここはリスクコミュニケーション/リスク管理/リスク評価の役割が整理されたターニングポイントでしたね。
    • リスクコミュニケーションの不備は,2009年の新型インフルエンザが流行した際に厚労省が作成した報告書(表)3)ですでに指摘されていたということです。表の①に示すように,国民への広報やリスクコミュニケーションを専門に取り扱う組織の設置,人員体制の充実などが謳われていました。しかしこれらは実践されず,10年あまりにわたり十分な対策がなされませんでした。
    • 日本では,いくつかのワクチンで死亡や重篤な副反応が発生した経緯があり,ワクチンのリスクコミュニケーションに大きな問題を抱えています。特にヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチンに関しては,副反応報道や国会賠償訴訟を含む関連裁判,厚労省による積極的接種の勧奨差し控えの決定があり,「ワクチン=危険な副反応が起こる」という印象が植え付けられてしまったと思います。
    • 若者に対するリスクコミュニケーションでは,身の周りの「目に見える公共」に対する貢献を起点として,自分が感染しないという個人の利益が公共の利益にも資すると説明するのがいいかもしれません。その説明に「あなたの選択で社会は変わる」というメッセージを盛り込み自己効力感を高めることで,公共の利益に対して貢献する意識を涵養できるように思います。
    • 次なるパンデミックのリスクに備えて皆が望む社会をめざすには,COVID-19パンデミック収束後を見据えたリスクコミュニケーションの検証と体制構築が絶対に欠かせません。
       
  • 新型コロナ、世界経済への後遺症も長引く恐れ-今年V字回復でも Enda Curran、Simon Kennedy 2021年4月19日 11:12 JST Bloomberg
    • 世界経済はコロナ危機対応の26兆ドル(約2828兆円)相当の支援措置とワクチン接種で多くの予想よりも速い回復ペースとなったが、教育の中断、雇用の喪失、戦時レベルの債務に加えて、人種やジェンダー、世代、地域間の不平等拡大は永続的な傷跡を残し、これらの大半が最貧国で顕著に見られる。
    • 世界で昨年失われた域内・国内総生産(GDP)は合わせて大恐慌以来の規模に達した。国際労働機関(ILO)はフルタイム換算で2億5500万人分の雇用に相当する損失とみている。ピュー・リサーチ・センターの研究者によると、世界の中間所得層は昨年、1990年代以降で初めて縮小を余儀なくされた。
    • 国際通貨基金(IMF)は先進国については今年以降、新型コロナから受ける影響は比較的小さく、低所得国や新興市場国では大きいとみている。
 
 
  • データで見るコロナの軌跡 データブック国際労働比較2020 特別編集号 2021 年 4 月 独法労働政策研究・研修機構 調査部
    • 当機構では例年、日本と諸外国の実態がわかりやすく理解できるよう編集した
      「データブック国際労働比較」を発行しています。しかし、今年度については、新型コロナウイルスの影響によって各国が現在進行形で直面している経済や雇用の大きな変化について、統計データを通じてできるだけリアルタイムで把握し、ウェブサイトで提供することに努めてきました。本特別編集号は、約 1 年にわたる成果をまとめたものです。
    • 新型コロナウイルスの蔓延が経済社会に及ぼしている影響は、実際には複雑かつ多岐にわたり、マクロレベルの統計データによる比較可能性には限界がありますが、各国における現状の理解に少しでも役立つようなら幸いです。
    • 目次
      1. 感染状況の推移と雇用維持施策
      2. 経済活動への影響
      3. 雇用への影響
 
  • ワクチン接種率で決まる世界経済 ~ワクチン接種が遅れる日本経済の悲劇~ 永濱 利廣 第一生命経済研究所 2021.04.12
    • 人口当たりワクチン接種率を説明変数、PMIの水準を被説明変数として単回帰分析をすると、サービス業PMIとワクチン接種率の関係が深いことがわかる。この背景には、ワクチン接種により移動や接触を伴うサービス関連産業がより恩恵を受けることがあろう。
    • 効率的な医療提供体制の構築が遅れ慎重な国民性の日本経済を正常化に近づけるには、諸外国以上にワクチン接種に伴う集団免疫獲得の必要性が高まろう。しかし、人口当たりのワクチン接種率の国際比較をすると、日本の接種率が圧倒的に低い。医療提供体制の差がある一方で、ワクチン接種率が圧倒的に遅いとなると、日本経済の回復が諸外国に比べて大幅に遅れることが必然。
    • ワクチン接種率が進む欧米中心に集団免疫が獲得されれば、経済政策が出口に向かう。仮に日本でも経済政策を出口に向かわせる議論が高まり、欧米経済と違って経済の正常化から程遠いのに経済政策の出口に向かうと、日本経済は正常化に向かうチャンス失うことになる。
    • およそ4人に一人がワクチンを接種しているとされる高所得国では早晩集団免疫が獲得され、サービス関連産業の回復も期待される。これに対し、高所得国にもかかわらずワクチン接種が遅れている日本では、まだ100人に一人しかワクチン接種が進んでいない。そのため、他の高所得国がK字型回復を脱したとしても、日本は当面K字型回復から脱却できない。世界経済はワクチン接種が進む多くの高所得国が正常化に近づく一方で、ワクチン接種が遅れる日本や500人に一人しか接種が進んでいない途上国の回復が遅れるK字型回復になることが予想される。
    • コロナショックは移動や接触需要を急激にシュリンクさせたことで業種や産業間でK字型回復をもたらしたが、今後はワクチン接種率の格差により、国間でのK字型回復をもたらす。特に日本は高所得国の中で数少ないワクチン接種が遅れている国であることから、他の先進国に比べて経済の正常化が大幅に遅れ、デフレ克服がより困難になる。
 
  • アメリカのワクチン接種はなぜ急速に進んだのか︖ ⽇本が学ぶべきヒント ㈱⽇本総合研究所 国際戦略研究所 佐藤由⾹⾥研究員 論座 2021 年 0 4 ⽉ 0 9 ⽇
    • バイデン政権発⾜以来、猛スピードでワクチン接種の前倒しを⾏い、就任時に掲げていた「100⽇間で1億回接種計画」は59⽇間で達成され、現在は、更に接種目標を2倍に増やし、就任100⽇以内で「2億回接種」と新たなゴールを掲げている。
      • ニューヨーク・タイムズの試算によれば、このペースでいけば⽶国は 6 ⽉中にはいわゆる「集団免役の獲得」(定義的に⼈⼝の約 7 0 〜 9 0 %以上がワクチン接種を完了)を達成し、秋までには⼦供( 1 2 〜 1 6 歳)の接種が開始される⾒通しである。
      • ⽇本は 英国の医療調査機関の調べ によれば国内の集団免疫獲得時期は「 2022 年 4 ⽉」と、⽶国に約1年の遅れが⾒込まれている。
    • ⽶国ワクチン戦略︓5つのキーポイント
      • ⼤規模なワクチン接種プログラムには、開発 → 製 造 → 集団接種という3つの⼤きなハードルが存在する。⽶国がそれらを克服し、迅速に展開するにあたりキーポイントとなったのが、 ①被害の⼤きさ、②資⾦⼒と市場規模、③⼤規模サプライチェーンの創出、④収容・⼈員キャパシティ、更に⑤啓蒙活動 、という 5 つ の要素であった。
        • トランプ⼤統領(当時)は「ワープスピード作戦」の下、約 140 億ドル(約 1 兆 5 千 万円)もの予算を 2 3 種類のワクチン開発の関連契約に投⼊し、他国を圧倒した(結果、 3 種類のワクチンが緊急使⽤承認を獲得)。
    • 「分野横断的アプローチ」が成功のカギ
      • ⽶国のワクチン戦略の特徴づけるものとは、⼀刻も早い「集団免役の獲得」という共通ゴールの下、政治家ではなく、各分野のプロフェッショナルが⾏政組織や医療施設で異なる分野や機能を越えた連携をリードし、科学的根拠を⽤いて意思決定を⾏っていること、が挙げられる。
        • ⽶メイヨ ― ・クリニック(ミネソタ州ロチェスター市、⽶国でトップクラスと⾔われる総合病院)が策定した「 ワクチン接種プログラム 」によれば、事前の迅速かつ⼊念な段取りや課題の解決には、複数の分野に亘る機能にまたがる分野横断的アプローチ( “multidisciplinary approach” ) * 2 が、成功のカギであるとしている。
    • ⽇本は今後、明確なゴール設定のもと、柔軟かつ丁寧に、ワクチン集団接種に向けた政府主導のロードマップを策定し、国⺠に分かり易く説明した上で、産官学を越えた幅広い連携のもとに円滑に実施していくことが喫緊の課題である。
       
  • 感染症の影響による女性就業者及び雇用者の変化について 2021年4月9日 今週の指標 No.1257 内科府
    • 感染症の影響を最も受けた女性就業者の特徴は、対個人向けサービス業の飲食・宿泊業や卸売・小売業等に従事し、年収は社会保険が適用されないとみられる 100 万円未満であり、パート・アルバイトとして働く世帯主の配偶者や世帯主と同居する子又は子の配偶者(副次的な所得稼得者層)、となる。他方、同期間においても、人手不足解消や、同一労働同一賃金の導入等もあり、単身者や世帯主の配偶者において、正規化が進んだと推察される。 
 
  • 2020年度 「負債1,000万円未満の倒産」調査 東京商工リサーチ 公開日付:021.04.08
    • 2020年度(20年4月‐21年3月)の負債1,000万円未満の企業倒産は、616件(前年度比20.0%増)だった。2000年度以降で最多だった2009年度の566件を抜き、最多記録を更新した。
    • 負債1,000万円以上の企業倒産が、コロナ禍の支援策で歴史的な低水準をたどるなか、業績改善の遅れた小・零細企業の苦しい状況を浮き彫りにしている。
    • 業種別では、コロナ禍で休業や時短営業を揺曳された飲食業が102件(前年度比70.0%増、前年度60件)で最多。内訳は、 「食堂,レストラン」(15→22件)、「バー,キャバレー,ナイトクラブ」(6→20件)、「酒場,ビヤホール」(13→19件)など。次いで、「飲食料品卸売業」が11件(前年度比450.0%増、前年度2件)と、飲食関連の増加が目立った。
    • 一方、リモートや在宅勤務の広がりで巣ごもり需要の恩恵を受けた「飲食料品小売業」は10件(同50.0%減、同20件)と、半減した。
 
  • 新型コロナで見えた世界 ー科学と政治の深い溝 MIGA コラム「新・世界診断」 2021年4月2日
    • 新型コロナ・パンデミックは、新興感染症に無防備な世界を震撼させるストレス・テストとなっているといえよう。ストレス・テスト(stress test)とは、システムに通常以上の負荷をかけて動作の反応を確認する、リスク管理手法のひとつである。その主たる目的はシステムの隠れた欠陥をあぶりだすことにある。
    • 新型コロナ禍というストレス・テストは、意図されたものではないとしても、意図的なテストと変わらず、世界の潜在した脆弱性を露呈している。そのような中で最も危ういのが、科学と政治の深い溝である。
    • 人々が納得できる政治の実現のためには、世論調査や研究結果から得られた科学的根拠が必要である。それらを明示して、論理的に政治的な判断につなげていく橋渡しのプロセスが重要なのだ。この考え方は、「科学的根拠に基づく政治」と呼ぶこともできる。
    • 科学と政治の溝を埋めるためには、それらを繋ぐ橋が必要である。その橋には、2つの橋げたが欠かせない。
      • 第1の橋げたは、科学的根拠を論理的に正しく解釈することである。ここで注意すべきなのは、科学的根拠の提示と解釈は別の問題だとの認識である。
      • 第2の橋げたは、合理的な意思決定ができる枠組みを明示することである。これは第1の橋げたよりもさらに複雑である。
    • 合理的な意思決定を行うためには、複数の選択肢(例えば、ロックダウンか GoTo トラベルか)を設定し、それぞれの選択肢を選んだ場合に起こり得るシナリオを客観的に明示する枠組み(意思決定モデルと呼ばれる)を作らなければならない。この意思決定モデルに科学的根拠を組み込み、各選択肢の一長一短を定量的に分析して初めて、第2の橋げたが完成するのである。
    • 最終的に、その分析結果を比較考量して、どの選択肢を選ぶかを決定するのが政治である。しかし、どの国でも、往々にしてそれら2つの橋げたがなおざりにされたり、あるいは無視される傾向がある。強固な橋げたをもたない橋渡しはむしろ危険だ。
    • PCR 検査で感染制御ができるかどうかの論拠は明確ではなく、できるとしても検査の数の問題ではなく、質(精度)の問題であると考えられる[3]。つまり、一定の検査精度が担保できなければ、いくら数を増やしても感染制御はできない。感染力の強い変異種ウイルスが広まれば、なおさら感染制御は困難になると予想される。
    • 政府は、第 4 波に対処するために、PCR 検査の施設での狙い撃ちや、市中のモニタリング機会を増やすという。しかし、このように思いつきで、形を変えて検査の量的拡大を図っても、所詮、感染抑止に役立つ可能性は理論的にほとんど出てこない。そのため、もっと科学的根拠の基本に立ち戻り、理論的に感染抑止を可能とするような戦略を展開すべきだ。
    • 例えば PCR 検査では、第1の橋げたに相当する検査精度の科学的根拠の正しい解釈に努め、量的拡大ではなく質的改善(精度を向上させる検査システムを考案・実施)への転換を図るべきである[3]。
    • 結局、「まん延防止等重点措置」か「緊急事態宣言」かといったような政治選択は、政治家の「やってます感」以上の何ものでもないように見える。感染抑止の実効性を高めるために、科学と政治に本気で橋を架けようとするなら、どのように2つの橋げたを造るのか、あるいは、科学と政治の深い溝をどう埋めるかといった本質的議論が必要である。
 
  • 超長寿社会における人口・経済・社会のモデリングと総合分析 ― 第1報告書 ― 国立社会保障・人口問題研究所 所内研究報告第91号 2021年3月31日
    • 研究論文 日本における新型コロナ感染症と死亡数の減少
      • 2020 年の全死因死亡数は、2019 年よりも減った。⽇本では⼈⼝⾼齢化が進⾏しており、死亡率の⾼い⾼齢者が増加しているので、死亡数もその分増加するはずであるが、その増加分を年齢調整値として算出し⽐べると、2020 年は 2019 年よりも 3.3%減少した。
      • 欧⽶は新型コロナウィルス感染症による死亡数の増加が著しい。⼀⽅⽇本よりも新型コロナウィルス感染症による死亡数が少ない韓国や台湾でも 2020 年の死亡数は増加している。これは、⽇本における⼤都市圏のように、⼈⼝⾼齢化に伴い、死亡率の⾼い⾼齢者が増加していることに起因していると思われる。死亡の分析には、年齢構造の調整が必須である。いずれにせよ⽇本全体としては 2020 年に死亡数が減っており、マスクの着⽤や⼿洗いの実施、三密防⽌で死亡が減ったのであれば、コロナ前の死亡には防げる死亡も多くあった、ということになる。
    • 資料 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)における死亡者のデータ 
      • 本データは各自治体が公表している、新型コロナウイルス感染症による死亡者の情報を元
        に作成されたものである。 
 
  • テレワーク拡大の可能性 ~「移動」からみるアフターコロナ~ 三井住友信託銀行 調査月報 2021 年 4 月号  発行2021年3月
  • 新型コロナ感染拡大が始まってから1年あまりが経ち、人々の生活様式は大きく変化した。外出制限の中、デジタルを活用したオンライン化の進展で、通勤・通学しなくても在宅で業務や学習が可能となり、「移動」しなくても「目的」が達成できるようになった。特に通勤についてはテレワークの導入が首都圏中心に進み、2019 年は 20%程度であったテレワーク導入率は 53%まで上昇した。
  • テレワークの導入は今後も拡大し続けるのだろうか。企業は新型コロナの感染拡大防止のため、半ば強制的に ICT 高度化を進め、在宅勤務に耐えうるインフラ整備に取り組んだ。しかし、業務を進めるにあたっての労務管理やコミュニケーション面の課題は依然として多く、完全な在宅勤務には限界があり、今後も一定の移動や対面は必要になろう。
  • テレワークと一口に言っても、自宅で働く「在宅勤務」、移動中・移動先での「モバイルワーク」、サテライトオフィス等「施設利用型」と形も様々である。今後は必要な時に必要な場所に移動する「勤務形態の多様化」がポイントになるのではなかろうか。 
 
  • 新型コロナワクチンの世界的な接種開始に関わるリスクと課題 McKinsey & Company 2021年3月
    • 集団免疫を獲得し、ポストパンデミック期へと移行するためには、今後数ヵ月から数年に渡って、多くの人々が努力を続ける必要がある。本稿では、新型コロナワクチンの接種に向けた大規模な取り組みと固有のリスク、そしてワクチン接種を加速させるための対策案について考察する。
    • ワクチン接種のプロセスのどこかで課題が発生すると、次々に影響が広がり、システム全体が機能不全に陥る可能性がある。
    • ワクチン接種を受ける側の観点では、特に発展途上国の社会インフラが脆弱な地域の人々は、接種実施機関へのアクセスが困難、ワクチンを受けるために仕事を休むことができない、子供の面倒を看てもらう人を手配できないといった追加的な課題に直面する可能性がある。また、関係当局への歴史的な不信感も障壁になりうる。さらに、ワクチンに対する懐疑心も、米国を含め、一部の人々に影響を与えている。
    • 新たに特定された重大リスク
      • 生産体制の拡充に伴う原材料の供給制約
      • 製造過程での品質保証に関わる課題
      • コールドチェーン物流と保管・管理に関わる課題
      • 人手不足
      • 医療現場における廃棄問題
      • IT 活用の課題
    • 新たに特定されたリスクを低減するための協働的なアプローチ
      • 承認申請中のワクチンそれぞれの個別需要に対応するためには、多様なグローバルサプライヤーとの提携が不可欠となる。
      • 組織間のインターフェースにおけるリスクの管理
 
  • コロナ危機下なぜ企業倒産は増えないのか ―政府支援策とキャッシュ積み上げで 4,000 件抑制―  ㈱日本総合研究所 2021 年3月 29 日 No.2020-048
    • 新型コロナ感染拡大の影響から、2020 年の実質 GDP は 27 兆円も落ち込んだ。まさに、2009 年の世界金融危機時に匹敵する落ち込みである。しかし、当時と大きく異なるのは、倒産件数がほとんど増えていないことである。東京商工リサーチによれば、2009 年の倒産件数は 15,480 件であったのに対し、2020 年は 7,773 件と半分程度に抑制されている。この要因として、以下の2点を指摘できる。
    • 第1に、政府・日銀による中小企業向け資金繰り支援である。一定の前提条件のもとで試算すると、民間金融機関等による貸出や政府による持続化給付金などの財政措置によって、倒産件数は 3,000 件ほど抑制できたとみられる。
    • 第2に、コロナ危機以前からの企業のキャッシュ保蔵である。2013 年以降の景気拡大期に収益環境は大きく改善したが、企業は投資を抑制し、現預金を積み上げてきた。これにより、企業倒産は 1,000 件ほど回避できたとみられる。
    • 経済危機時に企業倒産が急増すると、長期失業者や就業意欲喪失者が急増し大きな社会不安が生じるが、これを食い止めたという意味で、今般の資金繰り支援は十分評価に値する政策だったと判断される。
    • 今後、重要なことは、当面のウィズコロナにおいても、企業が付加価値を着実に拡大していけるかどうかである。企業は、事業のオンライン化・業務のデジタル化によって、感染拡大や自然災害が発生した時でも売上を確保できる態勢を整備していく必要がある。同時に、人口減少が進行するなか、既存事業の継続や品質改善に終始するのではなく、消費者の潜在需要を満たす、新しい製品・サービスの創出に今まで以上に注力していくことが求められる。
 
  • 内部留保とコロナ禍  国立国会図書館 調査及び立法考査局 調査と情報―ISSUE BRIEF― 第1145号 No. 1145(2021. 3.29)
    • 一般に「内部留保」は貸借対照表上の純資産の項目である利益剰余金を指す。利益剰余金は企業が獲得した利益のうち株主(出資者)に分配されずに企業内に蓄積されたものである。
    • 日本企業の利益剰余金は、額のみならず総資本に占める比率においても顕著に増加している。利益剰余金の増加は労働分配率の低下や企業が保有する現預金の増加とも関連している。
    • コロナ禍を受けて、企業は手元の現預金や金融機関からの借入等によって資金繰りを確保している。コロナ後に向けては、借入金の円滑な返済や設備投資の促進が課題となる。
    • 「内部留保」をめぐる諸議論の前提となる状況、すなわち総資本に占める高い利益剰余金比率、賃金・設備投資の抑制と現預金の蓄積といった日本企業の傾向が早期に変化する可能性は低く、今後も日本企業の「内部留保」は議論の対象となることが予想される。その際には、利益剰余金と現預金の蓄積を好む企業の姿勢がコロナ禍においてはプラスに働いたことと、日本経済の持続的成長の観点からはそのような姿勢が必ずしも望ましくはないこととの相克をいかに克服するかが重要な論点になろう。
 
  • 日本がワクチン開発に出遅れたのはなぜか 乏しい危機管理意識と初めから二番手目指すリーダーの姿勢 2021.3.29(月)横山 恭三 JBpress
    • なぜ、日本はワクチン開発で出遅れたのか。一言で言えば、政府の本気度の低さである。日本は初めから外国のワクチン頼りであった。他方、諸外国は国を挙げて、官民協力して必死に開発に努力したのである。当然、そこに膨大な資金と人材を投入している。
    • ワクチンは、国民を感染症およびそれに伴う疾病から防御するため、必要に応じて即座に利用できる体制が整備できていなければならない。危機管理の観点などから、戦略的に必要性が高い医薬品である。つまり戦略的物資である。
    • ワクチンの開発には巨額の資金が必要で投資リスクが大きく、参入企業が少ない。従って、国が全面的にバックアップしなければワクチン開発の成功は期待できない。
      • 日本のワクチン開発資金について言えば、政府は令和2年度の3次にわたる補正予算にコロナワクチン開発・生産支援を盛り込んだ。第1次補正が100億円余り、第2次は国内外で開発されたコロナワクチンの国内生産用の施設、設備に約1400億円、第3次が国内開発にかかる約1200億円である。合わせても2700億円である。
      • 単純比較はできないものの、米国が2020年5月に打ち出したワクチン開発計画「オペレーション・ワープ・スピード(Operation Warp Speed:OWS)」の予算は1兆円規模である。欧州や中国も同程度を確保したとされる。
      • 国民に一律現金10万円が給付された特別定額給付金の予算総額は12兆8803億円である。
    • 従来のワクチン開発には10年以上かかるとされる。ところが、米ファイザーの「mRNAワクチン」や中国シノファームの「不活性ワクチン」は1年足らずで実用化されている。なぜこのように開発期間を短縮できたのか。それは、各プロセスの並行処理、各フェーズの並行処理、研究開発に並行した生産体制の整備および薬事承認の迅速化によって達成されたものである。
    • 中国のワクチン開発の特徴
      • ①省庁横断の「ワクチン専従班」に強い権限を付与し24時間体制で開発を支援
      • ②平時の7倍以上の人材、設備を投入
        • ワクチンの動物試験は通常、例えば小ネズミで試験を行った後、大きなネズミ、次にウサギ、ブタ、サルなどと7種類の動物で1種ずつ行い、それぞれでデータが出るのを待って次の動物へと順繰りに進めていくのが普通とされる。それを今回の開発では7種類の動物をすべて同時並行で、さらにはワクチン量を分けた試験も同時並行で進める方式をとった。
      • ③技術的に成熟した「不活型ワクチン」に狙い
    • 米国のワクチン開発の特徴
      • ①国家プロジェクトの存在
        • 「オペレーション・ワープ・スピード」は、産官パートナーシップによる巨大プロジェクトであり、HHS(米保健福祉省)や傘下のCDC(米疾病対策センター)、FDA(米食品医薬品局)、NIH(米国立衛生研究所)、BARDA(米生物医学先端研究開発局)に加え、米国防総省や米農務省、米エネルギー省、米退役軍人省、そして民間企業を巻き込んだ横断的なプロジェクトになっている。 さらに、米国防総省からはDARPA(米国防高等研究計画局)の研究開発機関も関与するとされている。
      • ②軍民一体の開発
        • 「製造過程での感染リスクが低く、遺伝子情報さえ分かれば1カ月前後で開発でき、化学薬品と同じ要領で化学合成を通じて量産できる。すなわち、mRNAワクチンやDNAのワクチンが軍に適しているのである」
      • ③トップのリーダーシップ
      • ④先見性を持った研究者
        • 「過去20年のアウトブレイクの一覧を見れば、そのうち2つのウイルスがコロナウイルス科であったことが分かる。再び発生しても驚くにはあたらない」
    • 日本がワクチン開発で出遅れた理由
      • (1)政府にはワクチンを何が何でも国産するという強い意志がなかった。
        • 政府は当初から海外ワクチン頼みであった。
      • (2)ワクチン産業基盤の弱体化
        • 現在、欧米では巨大製薬企業がワクチン開発をリードしているが、日本では、中小企業や大学、研究所ばかりで、大手の製薬企業はあまり積極的ではない。
        • 日本でワクチン産業が落ち込んだ背景には、1970年代からのいわゆる「予防接種禍」がある。このため、国、国民、メーカーなどが予防接種そのものについて消極的になり、国内の開発・製造力が、極めて限定的になった。
        • 政府は、海外ワクチンの国内企業の受託生産によるワクチンの長期安定調達を目指す考えである。
      • (3)日本の危機管理能力の低さ
        • 日本大学危機管理学部教授の福田充氏は、「戦後日本は欧米先進国と比べて、安全保障におけるインテリジェンス活動や危機管理の弱さが指摘されてきたが、それは戦争やテロリズムに限ったことではなく、こうした感染症の発生と流行においても同様のことである」と述べている。
        • 危機管理で肝要なことは、最悪のシナリオを作成し、訓練し、問題点を把握し、危機に備えることである。
        • 危機管理で肝要なことは、危機に対応する「司令塔」を設置し、「権限」を与えることである。前述したように中国、米国は、省庁横断の司令塔を設置し、国を挙げて、ワクチン開発を支援した。
      • (4)ワクチンが重要な戦略物質であるという認識不足
        • ワクチンの開発力は安全保障上も重要であるという認識が広がっている。これは新型コロナウイルスワクチンに限ったものでない。
        • ワクチン開発能力を含め我が国のバイオテロ対応能力は全く不十分である。東京五輪を控え、テロリストなどの非国家主体からのバイオテロの脅威への対応も急務である。
    • 今回のワクチン開発競争や獲得競争で日本が後れをとった理由は、かつて第2次大戦末期の原子爆弾の研究・開発に失敗した理由と共通するものがあると考えている。日本は、ワクチン開発と同じように初めから本気度で米国に負けていたのである。
    • これらの事例は、危機管理においては結局、リーダーの先見性と失敗を恐れない勇気ある行動がカギになることを示している。
       
  • コロナ禍で後退した地方自治を検証する――片山善博(早稲田大学大学院政治学研究科教授)【佐藤優の頂上対決】 週刊新潮 2021年3月25日号掲載 デイリー新潮
    • 「新型インフルエンザ等対策特別措置法」は、国と地方の権限をはっきり分けている。まず国、内閣総理大臣の権限は、緊急事態宣言を発するか発しないかの判断にあります。それを発する要件も書いてあります。一番重要なのは、感染経路不明者が出ているかどうかという点です。
    • 総理大臣が緊急事態宣言を出せば、各知事が一定の範囲で店舗の営業自粛や施設の使用停止の要請をすることができます。どこに、どう要請をするかは、各都道府県知事の判断に委ねられている。これが地方の権限です。
    • 混乱した原因の一つは、緊急事態宣言を出した際、政府が知事の権限発動の具体的内容までを記した「基本的対処方針」を文書で出してしまったことにあります。対象となった地域は、これに従って一律に、四角四面にやらなければいけないと考えてしまった。
      • 「午後8時ではなく午後10時まで延長します」とか「緊急事態宣言は続いていますが、もう時短の要請はしません」という都道府県があってもいいのです。それは違法ではない。でもどうしたわけか、どこもそうは言い出しません。
      • 誤解していますね。緊急事態宣言が出ている地域の自粛要請の内容は決まっていて、時短要請をやめたり変更したりするなら緊急事態宣言そのものを解除してもらわないといけないと勘違いしている。間違った固定観念に囚われているのです。
    • 「国の方針なので、文句があったら国に言って」という立場で、独自の判断を避ける。でもそれは、自身の判断に自信がないということです。
      • 和歌山県の仁坂知事は、二つの点で他の知事とは違っていました。一つは、以前から保健所行政に強い関心を寄せていたこと、そしてもう一つは、国の通知に強制力はないと、はっきり認識していたことです。
    • 感染症対策のための保健所体制作りは、保険みたいなものです。何かあった時に、被害を最小限に抑えるための備えですが、それを無駄だと考えてきた。それで保健所を統廃合したり、職員を減らしたりして、さらには乳児健診や高齢者の健康指導といった日常的な機能に着眼して、市区町村に分けました。
      • 市区町村の保健所では、どうしても乳児健診や3種混合ワクチンの接種などが中心になります。そこでは感染症対策という本来の重要な機能が抜け落ちてしまう。こと感染症に関しては、せめて都道府県レベルに留めておかないと、うまく対応できません。市区町村では専門家もいないでしょうし、そもそも感染症の専門家自体が少ない。
    • ワクチン接種は予防接種法でやります。国がワクチンを調達して配分し、接種の実施主体は市区町村です。どこの会場でどういう順番でやればいいかは、それぞれで決めればいい。都道府県は調整したり、サポートしたりする係ですね。
      • どういう属性の人から優先して接種するかは、大枠は国が決めていいと思います。市区町村が判断すればいいことまで国がしゃしゃり出ては、かえって混乱しますね。地域差がありますから、それを念頭に置いて、市区町村で考えてくれ、と言うだけでいいのです。
    • 1999年に地方分権一括法が成立し、2000年から施行されました。この法律によって自治体が自分たちで決める領域が増えました。また関与の法定主義と言って、国が地方に何かをさせる際には、法律の根拠が必要となった。
      • 地方は国と対等だと全然わかっていない人も多いと思いますよ。理屈ではわかっていても体でわかっていないとか。わかっていてもあえて国の言う通りにした方がいいと考えている人もいる。
    • 私は今回のコロナ禍で地方自治が後退したと思っています。国と地方の関係がかなり昔に戻った。しかし中央の官僚には地方のことはよくわかりません。地方自治の原理は、地方のことは地方が責任を持って決める、です。地方分権改革の精神に立ち返って、いま一度、地方自治を検証する必要があると思います。
 
  • 政治家はワクチンに関して無責任な発言をしないで Nature ダイジェスト Vol. 18 No. 6 | doi : 10.1038/ndigest.2021.210644
    原文:Nature (2021-03-23) | doi: 10.1038/d41586-021-00769-7 | Politicians must dial down the rhetoric over COVID vaccines
    • アストラゼネカ社とオックスフォード大学が共同開発したCOVID-19ワクチンを巡り、欧州では政治家や政策立案者による論戦が展開されているが、こうした政治的な発言で傷つくのは、ワクチンそのものの信頼性だ。
    • ワクチン忌避(ワクチン接種を受けたり、子どもに受けさせたりするのをためらうこと)への懸念は全世界で高まっており、欧州では現在、パンデミックの第3波が発生している。ワクチン接種をためらう要因の1つが政府への不信感であることが、研究によって明らかになってきている。バルセロナ大学(スペイン)で健康政策を研究するジェフリー・ラザロ(Jeffrey Lazarus)らは、2020年6月に世界19カ国の1万3000人を対象に行った調査で、政府をほとんど信頼していない人が、ワクチンを接種すると答える割合が低かったことを明らかにした。
    • 政府への信頼が低下していること、そして、政府や機関への不信感がワクチン忌避を助長していると分かったことは、研究者が国民のワクチン接種への参加を高めるための介入策を提案する上で役立った。世界各国の関係当局は、ワクチン接種を推奨するために、政府や機関よりも信頼されている人物を採用した。医療関係者や研究者、信頼のおける宗教家や地域のリーダー、それから芸術・芸能・スポーツ界の著名人などだ。また、身体的にも精神的にも遠くへ移動せずに済むように、対象コミュニティーの中心部にワクチン接種施設を設置することが絶対に必要だ。
    • 政府への信頼が低下していること、そして、政府や機関への不信感がワクチン忌避を助長していると分かったことは、研究者が国民のワクチン接種への参加を高めるための介入策を提案する上で役立った。世界各国の関係当局は、ワクチン接種を推奨するために、政府や機関よりも信頼されている人物を採用した。医療関係者や研究者、信頼のおける宗教家や地域のリーダー、それから芸術・芸能・スポーツ界の著名人などだ。また、身体的にも精神的にも遠くへ移動せずに済むように、対象コミュニティーの中心部にワクチン接種施設を設置することが絶対に必要だ。
 
  • 【コロナ】政府によるロックダウンや外出規制、実は「経済損失に影響なし」との研究報告 藤 和彦 独法 経済産業研究所 2021年3月23日掲載
    • 死者数で30倍の開きがあるにもかかわらず、米国(マイナス6.36%)と日本(マイナス5.96%)の昨年のGDP損失はほとんど差がない。コロナのパンデミックでは健康被害と経済被害は連動していないのである(3月9日付日本経済新聞)。
    • 「政府によるロックダウン(都市封鎖)で外出できなくなり、サービス業への需要が落ち込んだ」と考えがちだが、最近の研究はこの見方を否定している。渡辺努・東京大学教授は「人々が感染を恐れて外出を抑制したことが需要減の真の原因である」と指摘しており、心理学の実験では、恐怖心の強弱と感染対策の行動(外出抑制やマスク着用など)との間には強い相関関係があるといわれている。
    • 人はしばしば知性で「恐怖」を乗り越えようとするが、このような試みは実を結ばない場合が多いといわざるを得ない。世界に冠たる超高齢社会である日本では、「効率」よりも「安全・安心」の価値を高くすることが「恐怖」に打ち勝つ最善の方策なのではないだろうか。
 
  • COVID-19 ワクチンの普及と開発に関する提言 2021 年 3 月 22 日 診療ガイドライン検討委員会 COVID-19 expert opinion working group
    • 本提言は、国民の皆様に COVID-19 ワクチンについて正しく理解していただき、わが国で COVID-19 ワクチンが安全かつ確実に普及することを目的としています。なお、内容の多くは、日本感染症学会の「COVID-19 ワクチンに関する提言」1)から引用しており、さらに一部の項目を追加しています。国内外の状況の変化に伴い、今後随時更新してゆく予定です。
    • <目次>
      はじめに
      1. COVID-19 の感染制御に、ワクチンが期待されています。
      2. COVID-19 ワクチンのはたらきについて理解が必要です。
      3. COVID-19 ワクチンの有効性の確認が重要です。
      4. COVID-19 ワクチンの安全性の確認が重要です。
      5. mRNA ワクチン接種後のアナフィラキシーについて注意と検証が必要です。
      6. 長期的なワクチンによる有害事象の観察が必要です。
      7. ワクチンの有効性に影響を与える「変異株」のサーベイランスが重要です。
      8. 高齢者等の優先接種者へのすみやかな接種が望まれます。
      9. 安全なワクチン接種体制を準備しておくことが必要です。
      10. 接種する医師・看護師は適切な筋肉内注射の方法を熟知する必要があります。
      11. 適切なワクチンリスクコミュニケーションが重要です。
      12. ワクチン接種後も基本的な感染対策が重要です。
      13. 安全で有効な国産 COVID-19 ワクチンの開発が求められます。
      おわりに
 
  • 塩崎恭久氏「明治以来の平時の発想ではコロナに勝てない」 公開日:2021/03/22 06:00 更新日:2021/03/22 14:02 日刊ゲンダイDigital
    • 第4波に備えるために必要な対策は何でしょう。要点は、有事は国が司令塔となるということです。日本は「武力攻撃事態法」で、武力攻撃を受けた際に国民の生命・財産を守る責任は国にある、と明記しています。知事に代わって国が責任を持つ「直接執行」を初めて入れました。この仕組みが感染症においても必要です。
    • ​感染症対策は「旧伝染病予防法」が制定された明治30(1897)年以来、基本的に同じ体制が続いています。知事が責任者、保健所がその手足として、感染症の発生原因を調査・把握する仕組みです。昨年6月の提言で「国が最終的に責任を持つ」ように変更を迫ったけれども、残念ながら、そうした構造的な改革はコロナ収束後ということに整理されてしまいました。
    • 特措法と感染症法の改正も「中途半端」。「知事が総合調整できる」と書いてあるだけです。調整できなければ、「できませんでした」で終わってしまう仕組みなのです。
    • 日本は保健所を中心に国立感染症研究所をトップとする公衆衛生の流れと、地域医療の流れがあり、この1年間で分かったことは、現状、公衆衛生が上、地域医療が下になってしまっています。
    • なぜ1年も「平時の発想」のままなのでしょう。前例踏襲主義ですよね。未知のウイルスは公衆衛生ムラが担うという明治以来の発想、すなわち、どういう敵であろうと、同じ体制で対処するという珍しい発想が続いています。変異株への対応にしても、感染研がゲノム解析を一手に担っている。
    • 感染研だけでは無理です。したがって、大学や民間と組んだ「官民ゲノム解析チーム」の創設が急務です。実は1日6000件、週3万件を解析できるベンチャー企業が国内にあるのです。米国の目標値よりも多く解析できる能力があるのに、厚労省・感染研はどうにも閉鎖的です。
    • 国が最低限に合わせる「護送船団方式」で対応してきた結果、輸出できるほどの企業を育ててこなかった。
      有事の「直接執行」が今こそ必要なのです。
    • 大学病院やその他公的病院に重症のコロナ患者の受け入れを要請・指示する権限を法律上、明確に定めることしか問題解決に至りません。大学病院など大規模病院が重症患者を受け入れ、中等症患者は公的病院や力のある民間病院などが受け持ち、軽症者や無症状患者は民間病院と宿泊施設が中心となるべきです。その割り振りを行う法的根拠を作らねばならないのです。
    • 知事に対する権限付与と、いざとなれば国が責任を持つ直接執行が重要なのです。知事がやらない時に国が代わりにやるのは、自治を侵していません。自治にゆだねた結果、「嫌だ」という知事に代わるのが国だからです。
    • 厚労省は自治体や保健所に事務連絡通知を出し続けています。とうとう1000通を超えました。太平洋戦争と同じです。みんなが自分の守備範囲を守った。しかし、結果は歴史に見るとおりです。「失敗の本質」ですね。

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  • コロナ禍からの復興:科学だけでは足りない Nature ダイジェスト Vol. 18 No. 6 | doi:10.1038/ndigest.2021.210618
    原文:Nature (2021-03-21) | doi: 10.1038/d41586-021-00731-7 | COVID-19 recovery: science isn’t enough to save us
    • パンデミックと戦うには、政策立案者は、STEM分野だけでなく、人文科学や社会科学の学者の助言にも耳を傾ける必要がある。
    • 重要なのは、コロナ禍からの復興の支援にどのような人々が必要とされたかという点だ。各国政府はパンデミック(世界的流行)の発生当初から専門家に助言を求めていたが、その相手はSTEM分野(科学、技術、工学、数学)の専門家が多かった。効果的な対応には人々の行動、モチベーション、文化がカギになることは当初から明らかだったにもかかわらず、例えば英国では、緊急時科学諮問グループ(Scientific Advisory Group for Emergencies;SAGE)の80人以上のメンバーのうち、社会科学者は限られた分野の代表しかおらず、人文科学者を代表するメンバーは1人しかいない。
    • このアプローチは変えていく必要がある。ワクチンを作ってくれたのは科学だが、ワクチン接種への躊躇などの社会的現実(social reality)を理解するには、SHAPE分野(人々と経済のための社会科学、人文科学、および芸術)の知見が助けになる。STEMとSHAPEが手を組むことで、人類の洞察力はより強固なものになるのだ。
    • 「疫病は生物的現象であると同時に社会的現象でもある」と書いた(2020年4月号「世界的な問題の解決には社会科学が必要」参照)。COVID-19が流行し始めたとき、多くの社会科学者や医師や公衆衛生研究者がマスクの必要性を訴えたが、各国政府の動きは鈍かった。理由の1つは、政策立案者が無作為化比較対照試験から得られるエビデンスを過度に重視し、社会科学者が豊富に持っている観察的・質的証拠を軽視していたことにある。政府が歴史家の助言を聞く機会があれば、私たちも過去のパンデミックで有効だった方法について考えることができたかもしれない。
    • 英国学士院は半年がかりでエビデンスをまとめた。このレビューの明確な結論の1つは、多くの人がオンライン生活を営んでいる現在、各国政府はデジタルインフラを極めて重要な公共サービスと考え、「デジタル・ディバイド(情報格差)」の緩和または解消に注力する必要があるということだ(デジタル・ディバイドとは、インターネットやパソコンなどの情報通信技術を利用できる者とできない者の間に生じる格差のこと)。
    • コミュニティーの回復力の重要性も明らかになった。コミュニティーを支えるためには、(物理的なインフラではなく)社会インフラへの投資も必要だ。英国の慈善団体のリーダーたちは、政治家がパンデミック対策に莫大な費用を投じているにもかかわらず、社会変革のためにはほんのわずかしか割り当てていないと批判している。
    • 政府は、SHAPEの研究対象である「現実」を直視する必要がある。パンデミックによって、社会にある断絶が露呈した。COVID-19は、以前からあった不平等を眼前に突き付け、悪化させ、強固なものにした。こうした不平等の原因と、それを是正する最善の方法を明らかにするためには、健康と社会のデータをしっかりと結び付ける必要がある。エビデンスは集まってきているのだから、政策立案者は今こそ行動しなければならない。事態に適切に対応するためには、SHAPE分野のデータとエビデンスを活用する必要がある。
 
  • COVID-19 行動科学視点から見た対応 東京大学大学院医学系研究科/公共健康医学専攻保健社会行動学分野教授 橋本 英樹2021.2.24 財務省財務総研政策研究所 ランチミーティング講演資料
  • 講演録
    • コロナへの対応は、エビデンスがなく、省庁またぎでの迅速な対応が必要であり、何を優先し何を評価指標にすればよいかの判断がつかなく、改めて行政の力が試された機会であった。振り返って惜しむべき点は、第一波から第二波の間の時間を活かすことができなかった点である。医療現場との情報共有体制が不十分であったためデータ整備が行われておらず、正確な情報がつかめないまま第二波を過ごしてしまった。分析するための共有財産であるデータの整備が行われていないのは大きな問題である。
    • 独自で調査したパネルデータを用いてコロナ疲れ(ファティーグ)について分析を行った結果、自粛などに対する飽きではなく、情緒的・感情的な疲れであることがわかった。コロナ疲れに対しては気を引き締めるよう呼びかけるのは逆効果であり、安心材料を提供することが必要なのである。政策立案に関してはマクロシミュレーションなどを用いて行われるべきであるが、具体的なメッセージとして発信する際には、行動する消費主体である国民がどのように受け取るのかを考える必要がある。こうしたリスク・コミュニケーションの重要性を理解し、国民が安心感を持つことができるよう様々な対話のチャネルを作っていくことが必要である。
    • 地域医療でも、資源の流動性を機動的に高めるようなシステムを作ることができるかが重要である。
 
  • 新型コロナウイルス対策―PCR 検査体制から見る日本の危機対応―利用統計を見る日本の危機対応― 国際医療福祉大学学会誌 第26巻1号2021-02-20
    • 1月28日に、新型コロナウィルス感染症を指定感染症に指定するという政令が厚労省から発出された。逆に、それが足かせになった場面も少なくなかったようにも思われる。
    • 日本で、何故PCR検査が少なかったのか、「偽陽性(多くはヒューマンエラーによる)」「PCR検査を積極的に行うと医療体制の逼迫を招く」「精度が低い」のいうようなこれらの論拠は、医学的には決して正しいとは言えない。
    • PCR検査という言葉は普及したものの、必ずしも、科学的に正しい知識が十分に普及していないことは、政府、政治、メディアの責任も大きいと言わざるを得ない。
    • 十分な科学的根拠に基づかないまま、PCR検査を絶対に増やさないという頑固な方針があったように見え、本当に必要PCR検査を定めて、そこからバックキャストして、施策を進めていくという考え方が、決定的に欠如していたように見える。
    • 「PCR検査の目詰まり」という言葉がよく用いられたが、実際には最初から流れていなかったPCR検査体制なので、表現するなら、「ボトルネックがあった」ということになる。
    • 将来に向けて、緊急事態に直面した時に、科学者コミュニティと政府、政治が密に連携した、リーダーシップを発揮できるヘッドクォーターの構築が必須である。
    • 関連:検証された日本のコロナ対策の「無理ゲー」っぷり 2021.8.11 河合 薫 健康社会学者(Ph.D.) 日経ビジネス
    • 関連:COVID-19に対するPCR検査体制 2020-08-07 9:54 pm COVID-19有識者会議 田中 真生(国際医療福祉大学ゲノム医学研究所 講師) 辻 省次(国際医療福祉大学ゲノム医学研究所 教授)
      • 感染拡大を抑制するために、無症状者を含め感染者をできるだけ多く見出し、感染予防に努めるべきであり、そのためには、大規模PCR検査体制の整備が必須である。
      • 検査の対象集団としては、感染の可能性が考えられる人達や、医療従事者や社会のインフラを支えるessential workerと位置づけられる人達に対してPCR検査を積極的に行うことに加えて、市中感染が蔓延して有病率が高くなっている地域に対しては、地域住民を対象とした大規模PCR検査を積極的に実施すべきである。
      • PCR検査の陽性的中率を高めるために、PCR検査の特異度を高めることが重要であり、全自動PCR検査装置の導入が有効である。
      • 全自動PCR検査装置は、1度に処理できる検体数が大きいこと、ヒューマンエラーを最小化できることから、積極的に導入すべきである。
      • 検査の受付から、全自動PCR検査装置を用いた解析、検査結果の集約、データベース化まで、一気通貫の体制の構築が必要であり、必要な試薬キットの確保、オペレーションを担当する検査技師、IT関係の人材、全体のオペレーションを統括する人材の確保が必要になる。
      • 本年2月の時点で、機器、試薬の供給が極めて逼迫していたことを考えると、全てを海外からの供給に頼るのではなく、国産の装置、試薬の供給体制を拡充していくことも、国策として必要であると考えられる。
      • このような大規模な体制を実現するために、グランドデザインの構築、ヘッドクォータの設置、国のリーダーシップが必須のものとなる。
  • 「Go To キャンペーン」、経済理論上なにが問題だったか -課題はタイミングと価格設定 2021年2月10日 岡三グローバル・リサーチ・センター理事長 エグゼクティブエコノミスト 高田 創
    • 日本の旅行市場規模は、全体で約28兆円と日本のGDPの約5%に相当する。そのなか、訪日外国人旅行(インバウンド)は4.8兆円と全体の約17%程度にすぎない。すなわち、83%と、旅行業の大宗は日本人によるものである。
    • インバウンドの規模が4.8兆円で、日本人の海外旅行の規模も4.8兆円であり、両者は殆ど同じ水準である。たとえ、インバウンドがゼロになっても、日本人の海外旅行分が国内旅行に振り替われば、日本全体の旅行金額は変わらないとい う計算になる。
    • コロナ感染における負の外部性(感染拡大)を抑制するにはピグー税のような形で課税(価格引き上げ)を行って活動を抑制する対応が考えられる。それは、「Go To トラベル」で価格引き下げによる供給曲線の下方シフトとは真逆の対応、すなわち、価格引き上げとなる。すなわち、「Go To キャンペーン」は経済理論上、真逆の対応との評価もできる。
    • 一方、「Go Toキャンペーン」が望まれるタイミングは、コロナ感染が収まったものの、国民の行動変容が生じる段階、例えば「風評被害」等も含めて、リゾート産業への需要が戻っていない状況と考えられる。今回は急ぎ過ぎたということになるだろう。
    • 今回のコロナショックに対しては、密を回避するという名目で価格設定の考え方を大きく転換するチャンスにつながる。コロナショックを奇貨とした改革が重要になる。供給構造の変動に制約があるなか、時間帯等による需要構造が変化する産業では、ダイナミックプライシングとして価格を時間に応じた需要動向に変える動きも拡大しやすい。
    • 需要者側では休日への集中を回避して平日での休暇取得増加による滞在型になることでのリゾート施設の効率利用促進が可能となる。「Go To トラベル」とした国内旅行促進インセンティブ策を策定したが、本来、混雑が見込まれる休祭日を避け、平日に限定することも考えられた。
    • 国内リゾート産業をインバウンドが回復する前の2・3年の時間軸で充実させることで、インバウンドの復活に備える重要な時間軸を想定しておくことができる。
 
  • 【重要】変異「種」の誤用について(報道機関 各位) 日本感染症学会 2021年1月22日 最終更新日:2021年1月27日
    • 国内の報道においては、変異“種”という表現が一部報道機関で統一して用いられているようですが、これは学術的には誤用となりますので、今後は変異“株”と正しく表記していただきたくお願い申し上げます。
    • 理由および解説
      • 突然変異はすべての生物において、遺伝子の複製過程で一部読み違えや組み換えが発生し、遺伝情報が一部変化する現象です。
      • この中で、新しい性質を持った子孫ができることがあります。この子孫のことを変異“株”と呼称します。変異株は、変化した遺伝情報の影響を受けた一部の性質が変化していますが、もともとの生物の種類は変化していません。この場合、同じウイルスの複製バリエーションにすぎませんので、ウイルスの名称は変化しません。
      • しかしながら、極まれに近縁の生物種の間で多くの遺伝子の交換(組み換え)が起きると、2つの生物種の特徴を併せ持った新しい生物種が誕生することがあり、その場合には変異“種”と呼称します。この場合、新型のウイルスが誕生することになるので、新しいウイルスの名前が与えられます。
      • 今回の変異株は、新型コロナウイルスのスパイクタンパクにN501Yという特異的な変異が起こり、宿主細胞への感染力が強くなったという性質の変化がありますが、元来もっていた新型コロナウイルスの基本的特性はほとんど引き継がれておりますので、依然として新型コロナウイルスのままですので、変異“株”と呼称すべきです。
 
  • 特集:データで見る日本経済の「不都合な真実」 溜池通信 vol.708 Biweekly Newsletter January 22 2021 双日総合研究所 吉崎達彦​ 
    • V-RESASのグラフから見えてくる「コロナ下の日本経済」について確認しておこう。
      * 移動人口の動向:予想通り、昨年 4~6 月の落ち込みは深い。逆に今年 1 月の緊急事態宣言以降は、人の移動がそれほど減っていない。
      * 決済データ、飲食店情報など:予想通りの動き。POS で 10 月に凹みがあるのは、前年9 月に消費税増税に伴う駆け込み需要があったことによる反動であろう。
      * 宿泊者数:昨年秋時点で「Go To キャンペーン」がいかに効果的だったかがよく分かる。特に 10 月に東京都が参加したことによる効果は大きかった。
      * イベントチケット販売数:エンタメ系の消費需要はまだ瀕死状態である。
      * 求人情報数:漸増傾向にあるとはいえ、水準はまだまだ低い。
    • V-RESAS のデータを見ていて興味深いのは、全国がほとんど同じ動きをするものもあれば、地域ごとにまるで違うものもあるということだ。たとえば移動人口の動向はほぼ全国共通(左下)だが、決済データから見る消費動向はかなりバラつきがある(右下)。これだけ地域による状況が違うのであれば、「全国一律のコロナ対策」はかえって害をなすことが多くなりそうだ。
    • 「国民 1 人 10 万円の給付金はどうなったのか?」マクロで見れば給付金は丸々貯蓄に回っており、消費刺激に役立っていないことは自明である。そのまま銀行口座に積み上がり、国債購入に回っているのではないだろうか。
    • 最近はやりの言葉で言えば「K字型回復」であり、製造業は上向きに、非製造業は下向きにとくっきりと明暗を分けてしまう。2020 年の年間インバウンドは、前年比 87.1%減の 411.6 万人となった。そしてこの部分の回復は当分見通せない。このままいくと、「K 字型」の股割き状態は拡大する一方なのではないか。
       
  • 政府はコロナにどう向きあったか(上) 2020年度、国の財政の軌跡 January 19, 2021
    政府はコロナにどう向きあったか(下) コロナ対策とその課題 January 22, 2021
    • 政府はコロナ対策として、2020年4月、6月および12月にわたって三つの補正予算を編成している。
    • 日本の財政はコロナ以前から自前財源では歳出を到底賄えない状態だったということである。
    • 一連の補正予算によるコロナ対策を含む歳出の拡大によって、一般歳出は国の自前の財源の288.7%、ほぼ3倍近くまで増大した。その結果、基礎的財政赤字は、自前の財源のほぼ2倍となり、その額は88.5兆円に達した。すでに述べたように、これに利払費を加えた赤字額は100兆円近くとなり、国債によって賄われる。
    • コロナ対策では、給付金、資金繰り対策、および緊急小口資金等の特別貸付を通じた「資金援助」が圧倒的に大きな割合を占めていることがわかる。続いて、予備費、感染防止等、地方創生臨時交付金、GoToキャンペーン事業等となっている。主として第3次補正によるコロナ対策以外の支出も9兆円に達し、相当の規模である。
    • 課題1:支援金回収の必要性
      コロナの被害がなかった、あるいは軽微ですんだ人々や企業から、コロナ禍の支援金の回収を図らなければならない。特別定額給付金、資金繰り対策のための費用がそれぞれ12.8兆円と18.6兆円、合計で31.4兆円にも及んでいることを考えると、ポストコロナにおいて、その回収は何としても進めなくてはならない。
    • 課題2:一括支出の見直し
      4兆5000億円にもなる「地方創生臨時交付金」である。これは、コロナ禍で落ち込んだ地方交付税交付金の補填に加えて支給される。問題となるのは、この一括交付金がコロナ対策のためにどのような形で使われ、どのような効果を生むのか不明なことだ。また、国の事業との重複も否めない。
      一括支出の問題では、国も例外ではない。予備費として、使途について説明のないままに11.5兆円計上されている。その後、第3次補正予算で1兆8,500億円の減額がなされているが、10兆円近くの巨額の予算がこのような形で使われるべきではない。それによって、政府自身も政策企画・執行力の弱体化、結果への責任希薄化という新たな問題を抱えることになる。
    • 課題3:補正予算のあり方
      2020年度の補正予算、とくに年度最後の第3次補正予算のあり方について、一言述べておきたい。国土強靭化、デジタル化・グリーン化など、それ自身は重要な施策だ。しかし、コロナ感染のただ中の国会で、補正予算に割くことのできる審議時間も限られたなかで、集中すべきは感染収束のための予算である。そのほかの財政措置は、腰を据えて、年度全体に係る当初予算で進めるべきである。
 
  • 20代~50代の皆さまへ:今、実行・拡散してほしいこと コロナ専門家有志の会 | COVID-PAGE 2021年1月20日 15:21
    • 有志の会の尾身です。
      どうか、以下のメッセージをお知り合いの方や他のSNS等にも拡散していただければ、本当にうれしいです。
    • 皆さんの大切な人たちを守り、皆さんの未来を明るくするためにも、ここで感染拡大を抑える必要があります。 そのために実行していただきたいのは、これまで通り、3密を避け、会話をするときはマスクをすることです。 とくにいま気をつけていただきたいのは、昼夜を問わず外出を控え、食事は一人で、あるいは同居人と少人数でとることです。
      こうした注意や心がけによって、皆さんの命、お年寄りの命を守るだけでなく、日本の医療を救い、経済への悪い影響を減らせます。
      どうか、若い世代の皆さん、日本の危機を救う立役者になってください。きっとなっていただけると信じています。よろしくお願いします。
 
  • 総理官邸が陥っている「認知バイアス」が国民の命を危険にさらす 香山リカ 2021/01/19 21:49 note
    • 「認知バイアス」とは最近、心理学の分野で注目されている、病的な現象ではない正常の心理現象のひとつとしての認知のゆがみ、かたよりを指します。
    • 私たちはときには「見たくないものは見なかったことにする」という認知のゆがみを起こすことで、あまりのストレスから自分がつぶれてしまうことをうまく回避します。この認知バイアスと重なる現象として、精神分析学者のフロイトの報告した症例をもとに娘のアンナ・フロイトがまとめた「心理的防衛機制」という無意識の働きもあります。
    • 「確証バイアス」とはその認知バイアスのひとつで、「自分にとって都合のいい情報にばかり注意が向き、反証する情報を無視しようとする傾向のこと」をいいます。ひとつの思い込みにとらわれ、たくさんの情報の中からそれを正当化してくれるものだけを選び取って読み、「ほら、この論文も私の意見が正しいことの裏付けになっている」とますます自分の最初の思い込みを強めていく、とてもやっかいな心の働きです。
      ここ二十年ほどの日本のさまざまな歴史修正主義的主張、原発事故後も続く”安全神話”、そして今回のコロナ対応、すべてにこの「確証バイアス」は強く関係していると思います。
    • (国民の命がかかわったコロナ対策に関して)、総理が「こうであってくれたらうれしいのに」と思っていたような意見を述べた人を目ざとく見つけ、すぐに面会し、「明るい話を聞いた」などと本音をもらすのはたいへんに問題です。せめて「ひとつの意見として拝聴した」くらいにとどめておくべきでした。
      • 16日の夜、マスメディアはいっせいに菅総理大臣がその日の午後、総理大臣公邸で大木隆生氏とおよそ1時間面会したことを報じました。NHKのサイトによると、大木氏は面会後、報道陣に「医療崩壊ということばが盛んに言われているが、97%、96%のベッドがコロナに使われず、一般の医療に使われており、余力が日本にはある。民間病院が、商売として『コロナをやりたい』と思うぐらいのインセンティブをつければ、日本の医療体制は瞬く間に強化される」と菅総理に語ったことを明らかにしました。それに対する総理の反応は、「久しぶりに明るい話を聞いた」だったそうです。
 
  • コロナ禍と医療イノベーションの国際比較①(総論) 2021 年 1 月 11 日 松山 幸弘  キャノングローバル戦略研究所
    • 1.医療イノベーション研究の軌跡
    • 2.初期の医療 IT 投資からデジタルヘルスに至るプロセス 
      • 全体最適のためには医療機関と保険者の連結が不可欠
        • ​コロナ禍でこの連結経営の医療体制のメリットが鮮明になった。日本では、コロナ感染を恐れて国民が通常医療の受診を控えた結果、医療機関の収支が悪化していることが問題になっている。米国のカイザーでも保険加入者による通常医療の受診控えが起こった。しかし、保険加入者の受診 控えは保険部門の増益要因である。カイザーは保険収支の黒字増加分をコロナ対策に使った。
    • 3.世界最先端を駆けるカイザーの組織カルチャー 
      • カイザー(Kaiser Permanente)は全体最適の意思決定をする組織の理想型
        • 世界最大の民間 IHN(​Integrated Healthcare Network:組織形態が非営利ホール ディングである医療事業体)
        • ​具体的には、企業でいう課レベルの組織単位から責任者を医師と非医師の 2 名にすることで、常に医療の質と対費用効果の両面から課題解決の追求をし、患者となる保険加入者にとってベストは何かを考えさせる仕組みである。その現場の意思決定が積み上がることで、経営トップが超複雑系の医療経営で的確な判断ができているのである。
    • 4.コロナ禍で鮮明になった日本の医療制度の欠陥と解決策 
      • 単位人口あたり感染者数が米国の 30 分の 1 以下で医療崩壊
      • 医療崩壊の元凶はコロナ医療と通常医療の混在
      • 民間病院にコロナ患者受け入れ要請は的外れ
      • 必要な法改正は完了している
        • ​国公立病院、国立大学付 属病院を人口 50 万人~100 万人の広域医療圏単位で経営統合することである。意思決定が一元 化されれば、危機管理のために人材シフトや施設の機能変更を迅速にできるし、平時の仕事を通 じて信頼関係、チームワークが醸成される。
      • 日本版 IHN を非課税永久債で構築する
        • ​日本版 IHN が非課税永久債(債券購入者の利息の所得税が非課税)を発行する制度を提案したい。この資金を使って、日本版 IHN が参加する国公立病院と国立大学附属病院を買い取るのである。これは、国民の貯蓄でセーフティネット事業体を構築、医療改革を進める ことを意味する。
        • 米国、英国、オーストラリアの IHN の多くは地域最大の雇用主である。必要とする専門人材の種 類が多岐にわたるため、IHN は巨大な人材育成機関でもある。地域の若者たちにとって IHN に就 職することがステイタスとなっている。つまり、政治の力で日本版 IHN を一気に構築することは、コロナ禍克服に役立つのみでなく、新規雇用創出で地方再生につなげる有効な方法なのである。
  • 感染症対策か経済対策か ―国民はコロナ対策の現状をどう考えているのか?- NIRAオピニオンペーパーNo.56    2021/1発行 大久保敏弘(慶應義塾大学経済学部 教授)
    • 2021年1月、緊急事態宣言の下、新型コロナ感染症の感染者数が急増しており医療体制は逼迫し混乱が続いている。本稿では就業者実態調査を基に、国民がコロナ対策の現状をどう考えているのかについて、以下の3点を明らかにした。
    • 第1に、感染症への恐怖といった感情は、感染症対策を重視すべきという考え方に直結する。一方で、所得、業種、就業形態といった客観的な要素は、経済対策を重視すべきかに影響を与えている。特に飲食業・宿泊業では、所得がコロナ禍で減少し続けており経済的な打撃は大きいが、感染症対策の強化を望む傾向にある。飲食業・宿泊業で働く人は、経済対策の効果に限界を感じており、対面サービスによる感染症への恐怖感は大きく、徹底した感染症対策を重視する傾向にあるものと思われる。
    • 第2に、感染症対策の徹底を喚起するには、政府による丁寧な情報の提供や感情に届く説明が必要であり、これが一致団結した感染症対策につながる。さらに重要なのはテレワークの推進である。感染症対策を行いつつ経済を動かせるテレワークをもう1段階推進すべきである。
    • 第3に、コロナ禍での精神的な疲弊は大きく、自殺や精神疾患につながっている可能性が高い。男女問わず40代以下の人々の状況が深刻であり、SNSなどを駆使してプッシュ型のアプローチで自殺防止対策・社会対策を講じていく必要がある。
 
  • 「声明」 大隅 良典、大村 智、本庶 佑、山中 伸弥 2021 年 1 月8日
    • 過去一年に渡るコロナ感染症の拡張が未だに収束せず、首都圏で緊急事態宣言が出された。現下の状況を憂慮し、我々は以下のような方針を政府に要望し、実行を求める。
      一、 医療機関と医療従事者への支援を拡充し、医療崩壊を防ぐ
      二、 PCR 検査能力の大幅な拡充と無症候感染者の隔離を強化する
      三、 ワクチンや治療薬の審査および承認は、独立性と透明性を担保しつつ迅速に行う
      四、 今後の新たな感染症発生の可能性を考え、ワクチンや治療薬等の開発原理を生み出す生命
      科学、およびその社会実装に不可欠な産学連携の支援を強化する
      五、 科学者の勧告を政策に反映できる長期的展望に立った制度を確立する
  • 医療危機に「国民のがんばり」で立ち向かう、戦時中と変わらぬ日本の姿 窪田順生:ノンフィクションライター 2021.1.7 4:10 DIAMOND online
    • 全国800以上の急性期病院のビッグデータを有するグローバルヘルスコンサルティング・ジャパンの分析でも、緊急事態宣言を境に多くの病院の経営が急速に悪化していることが明らかになっている。外出自粛で新規感染者数は減ったが、同時に感染を恐れてコロナ以外の患者も病院に近づかなくなったことで、通常の医療をしている病院の収入がブツリと途絶えてしまったからだ。
    • 本来、国家が国民に「経済死」を強いるなどということは、最後の最後にやる奥の手だ。しかし、今の日本政府はまだ手を尽くしたとは言い難い。 その最たるものが、コロナ医療資源の「偏在」の解消である。
      今回の問題の本質は、1400万人という世界有数の大都市であり、医師が4万人以上、看護師が10万人以上もいる東京が、コロナ重症患者100人たらずで「崩壊」してしまったように、日本の医療資源のポテンシャルを活かしていない「戦略ミス」にあることは明白だ。
    • わかりやすく言えば、一部の病院だけに重症患者が集中して「野戦病院」のようになっている一方で、コロナ患者を受け入れることなく、いつも通りにのんびりとした診療を行っている病院も山ほどあるのだ。
      「無策」を放置して、「国民一丸となって頑張るぞ」と突き進むと、結局最前線で戦っている人たちや国民に、多数の犠牲者が出る。そんな悲劇が過去にもあった。そう、先の太平洋戦争だ。
    • その象徴が、一説には140万人とも言われる日本軍の膨大な餓死者だ。自身も復員経験のある歴史学者の藤原彰氏の『餓死した英霊たち』(ちくま学芸文庫)によれば、日中戦争以降の軍人・軍属の戦没者数約230万人のうち、140万人(全体の61%)は餓死、もしくは栄養失調による病死だと推察されるという。
    • この構造は戦地の兵士だけではなく、国民にも当てはまった。「欲しがりません勝つまでは」などというスローガンのもとで、「贅沢は慎め」と自粛ムードが社会を支配する中で、国民一丸となって頑張った。
    • 日本看護協会が昨年、コロナ感染者を受け入れた病院の21%で看護師が離職したことを明らかにしたことからもわかるように、「第1波」時程度の感染者数であっても、コロナ医療の現場は日本軍のガタルカナル島の戦いのように、厳しい消耗戦を強いられたのだ。
    • 筆者が今の日本と戦時中の日本のムードが丸かぶりだと感じるのは、政府が後ろ向きな「緊急事態宣言の発出」を多くの国民が望んでいるという点だ。要するに、国民の「自粛意識」が政府のそれを飛び越えてしまっているのだ。
    • 令和日本にもそんなポピュリズムの匂いが漂う。最前線で戦う人々が援軍もないまま次々と倒れているのに、「戦略ミス」を認めず、ただひたすら国民に「自粛」を呼びかける。根本的な問題が解決されないので、犠牲者はどんどん増えていくのだ。
    • 「コロナ敗戦」という言葉が頭にちらつくのは、筆者だけだろうか。
  • 「飲食店の制限だけでは1ヶ月で感染者は減らない」 8割おじさんが厚労省“非公開”のシミュレーションを公開 BuzzFeed 公開 2021年1月5日
    • ※インタビューは1月5日午前Zoomで行い、その時点での情報に基づいている。
    • 緊急事態宣言を打つ時に、
      1.どこをゴールにして
      2.どういう内容を
      3.どれぐらいの期間
      打つかということが重要になるんです。
    • 厳しい対策を打たなければ、実効再生産数は十分に下がらない。政府が現状打ち出している限定的な制限だと青色の0.9倍ぐらいまでしか落ちず、実効再生産数は1前後で感染者は横ばいとなることを見込んでいる
      第1波の緊急事態宣言中の実効再生産数は0.54〜0.57ぐらいでした。
    • 宣言期間自体はどんな対策を打っても第1波の時よりも長くならざるを得ません。1か月で済ますにはロックダウンのように外出を禁止するような接触減をしないといけませんが、それは日本ではできないのです。最速でも2ヶ月はかかる、というのが結論ですね。
    • 急所だけを狙う政策だと、仮に実効再生産数が1未満に下がっても1に近い値になるので、長く対策を続けることが必要になります。仮にずっと続けるならば、年度が開けても、宣言が終わらないことを覚悟しなければならないかもしれません。
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