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研究論文 [2024年]

[10月]
  • 希薄な社会的つながり"と"独居"は海馬の萎縮に関連するが、その作用は正反対:孤立のパラドックス 令和6年10月23日 地方独立行政法人 東京都健康長寿医療センター研究所
    • 本研究は、新潟大学、東京医科大学、東京科学大学(旧・東京医科歯科大学)との共同研究であり、国際誌 Archives of Geriatrics and Gerontology に掲載されました。また、同内容は第 12 回日本認知症予防学会にて口頭発表を行い、浦上賞を受賞しています。

    • 「社会的孤立」といっても、その定義や捉え方は様々です。今回は、特に取り上げられることが多い、「社会的ネットワーク(他者との交流頻度)」と「世帯構成(独居か否か)」の2つを用いました。

    • 4年間の海馬容積の変化量に対する社会的孤立の影響を重回帰分析を用いて検討した結果、

      • 週1回未満の者は、接触頻度が週3回以上の者に比べ、海馬容積の減少が大きかった。

      • 独居者は、誰かと同居している者に比べ、海馬容積の減少が緩やかだった。

      • この関連は、性別や年齢による違いはなかった。

    • 以上、"独居"と"希薄なつながり"は、共に孤立の指標として用いられることが多いものの、海馬の萎縮に対しては正反対に作用することが分かりました。

    • 社会的ネットワークで定義される社会的孤立が海馬容量の減少に関連していたのは、他者との関係が希薄であるために日常的な脳への刺激が少なく、それによって海馬の萎縮が進んでしまったためと考えられます。また、周囲の関係性の中から得られるソーシャルサポート(様々な支援)は、ストレスを緩和する効果が知られています。ストレスは脳萎縮を進行させるため、こうしたサポートを得る機会が少ない孤立者の海馬は萎縮しやすかった可能性もあります。

    • 一方、同じ孤立でも、独居者の海馬萎縮のスピードは緩やかでした。一人暮らしだと、家事などの身の回りのことは基本的に自分で行う必要があります。自らで生活を営むことが脳に刺激をもたらし、それが萎縮の抑制につながった可能性があります。また、自治体等は一人暮らしの人を支援する制度を作っていたり、コミュニティでは一人暮らしの人は見守り活動の対象になることが多くあります。このように、独居者は、周囲からの支えを得やすい環境にあります。これらフォーマル・インフォーマルな支援は独居者の安心に寄与し、それがストレスを軽減し、脳萎縮を緩やかにしていたのかもしれません。

    • 「孤立」をひと纏めに考えるのではなく、孤立の種類を把握し、それに応じた対策を講じていくことが重要だと示唆されました。

​[8月]
  • 看護のアジェンダ [第236回] 孤独について 連載 井部俊子 2024.08.13 医学界新聞(通常号):第3564号より
    • ​孤独は心理的であるだけでなく身体的でもあり,その出現は18世紀末にさかのぼることができる。ちょうどそのころ,独りでいることの否定的な感情体験を言い表す新しい語として,「孤独」(ロンリネス)が登場した。

    • 「一人でいること」自体は問題ではない

      • 2024(令和6)年6月の社会保障研究会における元内閣官房孤独・孤立対策担当室長・山本麻里氏による「孤独・孤立対策の推進について」2)の講演内容を参照してまとめ

 
[7月]

  • 孤独感と社会的孤立の定義と理論に関する概観 林 萍萍 医療と社会<特集 孤独感と社会的孤立 その現状と対応> 2024年34巻1号 発行日: 2024/06/20 公開日: 2024/07/02

    • 本稿では,国内外における孤独感と社会的孤立の定義,分類,測定方法,および理論的アプローチを整理した。また,ミクロとマクロという2つの視点から孤独感と社会的孤立に関連する要因を概観した。

    • ミクロレベルでは,人口統計学的要因,社会的要因および個人的要因から,マクロレベルでは,人口構造の変化や経済格差の拡大,COVID-19パンデミックといった社会環境の変化および文化的要因から考察した。

    • これまでの研究について,孤独感と社会的孤立に関する研究の課題として,定義や測定方法が確立されていないこと,主に高齢者を中心に行われてきたこと,横断的な研究に偏っていることなどが挙げられる。

    • また,コロナが終息した後も,今まで顕在化になった問題は再び目に見えにくくなる可能性があるため,孤独感と社会的孤立に関する検討は,社会が対応すべき重要な課題として残っている。

    • 今後の研究では,これらの課題に対処し,より包括的で広範なアプローチを取ることが求められる。​

 
  • 社会的養護を必要とする若者の孤立・孤独と参画 永野 咲 医療と社会<特集 孤独感と社会的孤立 その現状と対応> 2024年34巻1号 発行日: 2024/06/20 公開日: 2024/07/02
    • 本稿では,若者の中でも特に社会的養護を必要とする若者の生活状況に焦点を当てる。

    • 社会的養護を経験した若者の「その後」は,2020年度の全国調査までほとんど把握されてこなかった。明らかになりつつある社会的養護の「その後」の状況は「ライフチャンス」の格差が指摘されるものである。ライフチャンスは,政治社会学者ラルフ・ダーレンドルフによって定義された概念で,オプションとリガチュアの相互関係によって決定される。

    • 本稿では,社会的養護を経験した若者のオプションとリガチュアの状況について詳述する。

      • ダーレンドルフは,リガチュアを「帰属」「人を支え,導くもの」「深い文化的な絆」と説明する(Dahrendorf, 1992=2001)。ライフチャンス概念の特徴でもある「リガチュア」という語は,元来,手術の際に傷口を縫い合わせる結紮糸のことを指す語で,ダーレンドルフは,これまで使われている「つながり」や「帰属」とは違う意味であることをはっきりさせるために,あえてこの馴染みのない言葉を用いている。このリガチュアが,社会の中での個人の「位置」を定め,人々の行動の基盤をつくり,選択に意味を付与する。また,リガチュアは,その質によってライフチャンスを高めることもあれば,制限するよう働くこともある。

    • 例えば,オプションの格差では,社会的養護を経験した若者の生活保護受給率は同年代の約18倍であり,大学等進学率にも格差がある。大学卒業の割合は2%にとどまる。さらに,コロナ禍でも食料の確保や医療へのアクセスに大きな影響を受けたことが明らかとなっている。

    • こうした重大な危機に直面しても,社会的養護のもとで育った若者たちが原家族や元の養育者を頼ることは難しく,こうしたつながりの状況は,ライフチャンスにおけるリガチュアの側面から捉えることができる。社会的養護のもとでは,今後リレーショナル・パーマネンシーを保障する取り組みが重要である。

    • さらには,社会的養護のもとで暮らした若者たちは,「自分が何者か」というアイデンティティが大きく揺るがされ,他者や社会とリガチュアを築いていくことが難しくなり,このことが「孤独」につながっていく可能性もある。自分の人生の主体者として,意見が聴かれること,参画することを保障することが極めて重要である。

  • 社会的孤立・孤独感が健康やウェルビーイングに及ぼす影響 中込 敦士 医療と社会<特集 孤独感と社会的孤立 その現状と対応> 2024年34巻1号 発行日: 2024/06/20 公開日: 2024/07/02
    • 社会的孤立と孤独感は健康とウェルビーイングに広範な影響を及ぼすことが知られている。本稿では健康・ウェルビーイングに及ぼす影響についてレビューを行い,新型コロナウイルス感染症に伴い生じた社会的孤立・孤独感の健康・ウェルビーイングへの影響についても検証した。

    • 社会的孤立・孤独感と総死亡,心血管疾患による死亡,がんによる死亡との関連はメタアナリシスでの報告もあり,特に社会的孤立で一貫した知見が得られている。一方で心血管疾患やがんの発症との関連については結果は一貫していない。認知症発症については孤独感より社会的孤立において頑健な関連が報告されており,うつに関しては社会的孤立と孤独感共に強い関連が認められている。社会的孤立・孤独感とウェルビーイングに関してはまだ報告が少ないのが現状である。

    • 新型コロナウイルス感染症流行に伴い,社会的孤立・孤独感の増悪が生じたと考えられる。さらに新型コロナ流行下での社会的孤立が精神的苦痛を増大させるといった報告がある。

    • 社会的孤立・孤独感は健康,ウェルビーイングに広範な影響を及ぼし得る。エビデンスの多くは観察研究によるが,いくつかのアウトカムではかなりの一貫性がある。一方で新型コロナウイルス感染症流行に伴い社会のデジタル化が急速に進んだことから社会的孤立を対面・デジタル両面から評価し,健康・ウェルビーイングへの影響を検証する必要性が高まっている。

  • 社会的孤立・孤独の軽減と予防 一次予防研究の展開に向けて 浦 光博 医療と社会<特集 孤独感と社会的孤立 その現状と対応> 2024年34巻1号 発行日: 2024/06/20 公開日: 2024/07/02
    • 社会的孤立・孤独は,人々の心身の健康や社会に大きな影響を与える。そのため,多くの研究が社会的孤立や孤独を軽減するための介入策を検討し,それらに一定の効果があることを示してきた。

    • 本稿ではまず,社会的孤立や孤独の影響について検討した研究や,それらを軽減することを目的とした介入研究について簡単にレビューした。

    • 次に,従来の介入研究の限界を指摘した上で,社会的孤立や孤独の一次予防に関する研究が必要であるにもかかわらず,まだほとんど行われていないことを指摘した。

    • 最後に,社会的痛み,関係流動性,社会的ネットワークに関する研究結果を踏まえ,社会的孤立や孤独の一次予防には,多様な社会的ネットワークを提供し,これらのネットワーク間の移動の自由度を高めることが重要であると主張した。

[6月]
 
  • 成人期,高齢期における社会的孤立,孤独感の分布と規定要因:文献レビュー 村山 洋史, 須田 拓実, 中本 五鈴 医療と社会<特集 孤独感と社会的孤立 その現状と対応> 2024年34巻1号 発行日: 2024/06/20 公開日: 2024/07/02
    • ​本研究は,成人期および高齢期における社会的孤立と孤独感に関する包括的なレビューを行い,その分布,規定要因(関連要因,誘発要因)について概観する。

    • 社会的孤立,孤独感は,社会構造の変化,テクノロジーの進展,個人の志向の変化,新型コロナウイルス感染症流行の影響下での生活様式の変化が大きく影響し,近年深刻化し,対応が急がれている。

    • 社会的孤立と孤独感は関連するが異なる概念であり,社会的孤立は客観的な社会的ネットワークの欠如を,孤独感は主観的な交流の欠如という感情を指す。

    • 社会的孤立は主に社会的ネットワークの測定によって定義され,孤独感は心理尺度によって測定されることが多く,両者とも多岐に亘る要因が関連している。

    • また,孤立,孤独に陥る契機は,転居や近しい者の喪失など誰しも経験するライフイベントや,戦争や紛争,自然災害などの個人ではコントロールできない要因によって引き起こされる。日本においては,個人主義の進展や,気楽なつながりを求める傾向が増加しており,これらの社会文化的変化が社会的孤立や孤独感に影響を与えている可能性がある。

    • また,コロナ禍はこれらの問題を一層顕在化させ,新たな社会的孤立や孤独感の形態を生み出していた。

    • 健康やウェルビーイングを保つためには,孤立や孤独を予防するとともに,どのような状況の人でも,たとえ孤立,孤独に陥ったとしても,必要時に社会的なつながりや支援を得られる場づくりや仕組みづくりが重要である。

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  • 社会的孤立・孤独問題にICT は活用できるのか 太刀川 弘和, 白鳥 裕貴, 相羽 美幸, 川上 直秋, 菅原 大地 医療と社会<特集 孤独感と社会的孤立 その現状と対応> 2024年34巻1号 発行日: 2024/06/20 公開日: 2024/07/02 
    • 深刻化している社会的孤立・孤独問題への対策として,インターネット等の情報通信技術(ICT)の有用性を,内外の文献から検討した。

    • 文献抽出の結果,高齢者に対しては,すでに多くのICTに関わる調査・介入が実施されており,その有効性については,コロナ禍でも一定のエビデンスが得られていた。

    • 一方,若者や成人ではICTを積極的に孤立・孤独対策には用いておらず,ICTへの過度の依存や利用は,メンタルヘルスに悪影響を及ぼすリスクがあるとの報告が多かった。

    • ICTは高齢者への孤立・孤独対策として,新たなつながりのツールという意味で必要性が高く,今後集団で利用促進を図るべきであろう。他の世代,特に若者では,利用の仕方によってかえって孤独・自殺リスクを高める場合があることに留意しつつ,その孤独に寄り添う新たなICTを開発していくべきと考えられた。

    • さらに,国の孤立・孤独への重点計画では,ICTが相談ツールとしてしか検討されておらず,一次予防ツールとしての検討も必要と思われた。​

​[4月]
  • ソーシャルネットワーク、社会的孤立の認識、孤独感は、日本の成人のうつ病症状にどのように影響するのでしょうか? 櫛引夏穂,相葉みゆき,緑川春彦,小村健太郎,菅原大地,白鳥由紀,川上直明,小川貴文,矢口智恵,立川弘和 公開日: 2024年4月24日 PLOSA ONE
    • ​認知行動療法などの心理学的アプローチによる介入が、社会的孤立や孤独感の認識を軽減するのに効果的であり、それがうつ病の症状の予防につながる可能性があることを示している。

    • 社会的孤立の客観的な状態と、人が主観的に孤立をどのように認識しているかは、本質的に異なります。研究によると、自分の社会的サークルの大きさの認識は、孤独感や社会的孤立の経験と密接に関連していま。特に、認識された社会的孤立は孤独感につながる可能性があり、客観的な社会的孤立よりも健康に大きな影響を与えます。したがって、社会的孤立と孤独感に関連する健康結果を評価する際には、社会的孤立の客観的な認識(つまり、社会的ネットワークの大きさ)と主観的な認識を評価することが重要です。

    • 本研究では、社会的孤立(ソーシャルネットワークのサイズで評価)、社会的孤立の認識、および孤独が抑うつ症状に及ぼす影響を調査するための仮説モデル(図1 )を開発した。既存の文献に基づいて、ソーシャルネットワークの拡大は、社会的孤立、孤独の認識、および抑うつ症状に負の相関関係にあるという仮説を立てています。

    • 社会的孤立と孤独に関するこれまでの研究は主に高齢者に焦点を当てているが[ 35 ]、我々はこれらの問題が人生のどの段階の個人にも影響を及ぼす可能性があることを認識しており[ 30、31 ] 、他の年齢層を含めることで範囲を広げている 。

    • 社会的孤立と孤独感は長い間うつ病の症状と関連付けられてきましたが、調査結果から、社会的孤立の実際の状態ではなく、個人の孤立の認識とその結果生じる孤独感の方がうつ病の症状の発症に重要な役割を果たしていることが明らかになりました。この調査結果は、うつ病の症状を予防するための重要な戦略として、社会的ネットワークを拡大するだけでなく、社会的孤立と孤独感の認識に対処し、修正することの重要性を強調しています。

    • 関連:社会的孤立を自覚し孤独を感じることが抑うつ症状を高める 筑波大学 弘前大学 東洋学園大学 令和6年4月25日 科学技術振興機構(JST)
      • 社会的に孤立している客観的な状態は孤独感や抑うつ症状とほとんど関連がない一方で、社会的に孤立していると主観的に感じることや孤独感が、抑うつ症状と関連することが分かりました。特に、社会的に孤立していると自覚し、孤独を感じることが、抑うつ症状をさらに高めることが明らかになりました。

      • 客観的に見て「人とのつながりが少ない」状態の社会的孤立と、主観的に感じる否定的な感情の孤独感は、いずれも心身に悪影響を及ぼします。一方で、社会的孤立の状態であっても、孤独を感じずに健康的に過ごすことができる人々もいます。しかし、社会的孤立や孤独感が、メンタルヘルスに影響するプロセスついて、総合的な検討はほとんど行われていませんでした。

      • 本研究では、社会的に孤立している客観的状態そのものは孤独感や抑うつ症状とほとんど関連がなく、社会的に孤立していると主観的に感じることや孤独感が、抑うつ症状と関連することを見いだしました。特に、社会的に孤立していると当人が認知し、そこに孤独を感じることによって、抑うつ症状がさらに高まることが分かりました。この結果は、社会的孤立の状態について、当人がどのように感じているかに着目することが重要であり、社会的孤立の状態にある人々に支援をする際には、人とのつながりを増やすだけでなく、個人の認識や考え、感情に焦点を当てる必要性を示しています。

      • 本研究グループでは、社会的に孤立していても、社会生活や健康を維持し、個々が充実した生活を送ることができる健康な「個立」社会を創ることを目指しています。社会的孤立や孤独感が、抑うつ症状にどのような影響を及ぼすのかについて知ることは、社会的孤立や孤独感を予防するための新たな方略の開発につながると期待されます。

 
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