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文献・歴史 [2023年1
 
  • 永久凍土から4.6万年前の線虫が復活 未知の病原体出現の懸念高まる 2023.07.30 Forbes

    • シベリアの永久凍土で約4万6000年間にわたり休眠状態にあった線虫を蘇生させることに成功したとする論文が27日、科学誌PLOSジェネティクスに発表された。気候変動により地球の永久凍土が解け、病原菌などの危険な生物が出現する懸念をあおる研究結果だ。

    • 地下40メートルの永久凍土から見つかったこの線虫は、クリプトビオシスと呼ばれる休眠状態に入ることで厳しい環境を生き延びていた。同じ場所にあった植物の名残を放射性炭素年代測定にかけたところ、4万5839~4万7769年前の更新世後期のものであることがわかった。

    • 線虫がクリプトビオシスで生存していた期間としては、これまで確認された中で最長。線虫は新種で、Panagrolaimus kolymaensisと名づけられた。

    • 今回の線虫のように、危険な病原体が長期間の休眠状態から復活する可能性は、多くの科学者が懸念している。こうした病原体の多くは数千年にわたり凍結状態にあり、現代人が免疫を持っていない種類である可能性がある。

 

  • 新型コロナウイルス感染症対応記録 監修 尾身茂(公益財団法人結核予防会 理事長) 脇田隆字(国立感染症研究所 所) 2023年3月刊 2023年4月27日WEB公開 一般財団法人 日本公衆衛生協会

    • 各衛生担当部局をはじめ保健所、地方衛生研究所など最前線で今回の流行に取り組まれた公衆衛生関係機関の対応記録をまとめ、将来の新たな感染症の脅威への備えとすべく、国の地域保健対策総合推進事業の一環として「新型コロナウイルス感染症対応記録」を作成することといたしました。

      • 第1章 新型コロナウイルス感染症発生前
        第2章 新型コロナウイルス感染症発生後の主な出来事と対応
        第3章 新型コロナウイルス感染症の特徴
        第4章 組織の体制、ガバナンス
        第5章 初動対応
        第6章 水際対策
        第7章 サーベイランス
        第8章 保健所体制
        第9章 積極的疫学調査
        第10章 検査体制
        第11章 医療体制
        第12章 治療薬
        第13章 ワクチン
        第14章 広報・リスクコミュニケーション
        第15章 社会生活への影響
        第16章 資料集

      • 関連:「科学と政治のせめぎ合い感じた」 尾身茂氏らがコロナ記録集 毎日新聞 2023/4/27 18:00(最終更新 4/27 21:42)

        • 国立感染症研究所の脇田隆字所長は、緊急事態宣言を出すべきだとの専門家の分析結果が政治的な意図でなかなか出せなかったと明かし、「科学と政治のせめぎ合いを感じた」と振り返った。
          執筆者には、政府の有識者会議に所属した医療や経済の専門家の他、保健所や地方衛生研究所の幹部ら90人が名を連ねた。対策の総括はせず、コラムで各執筆者が考える課題、現場のジレンマや教訓がつづられている。

      • 関連:新型コロナ、対応記録公開=「科学と政治せめぎ合い」―尾身会長、脇田所長ら執筆2023-04-28 18:21 JIJI.COM

        • 2020~21年の流行状況や医療提供体制、ワクチンや治療薬の確保・供給状況などがまとめられている。
          尾身会長らは21年6月18日、東京五輪・パラリンピックは無観客開催が望ましいとする提言をまとめ、記者会見に臨んだ。政府分科会メンバーの武藤香織東大教授は「分科会で正式な議事にはならず、懸念が表明されるのみで終わった。専門家としての社会的責任を果たすべきだとの意見が一致し、有志による記者会見を選択せざるを得なかった」と記録集で言及した。

 

  • 閣僚の半数が亡くなり、中央官庁はロックダウン…1300年前の日本で起きた最悪のパンデミックとは だから奈良の大仏が造立された 2023/04/25 14:00 PRESIDENT Online
    • 天平7年、大宰府管内で疫病が発生します。公式記録である『続日本紀』には「豌豆瘡えんどうそう」と書かれています。エンドウ豆のかたちをした「瘡かさ」、すなわち発疹が現れたという意味です。これはほぼ天然痘のことでしょう。
    • 大陸への窓口である大宰府管内で発生したのですから当然、大陸から入ってきたと考えるのが合理的ですが、新羅から入ってきたのか、唐から入ってきたのかはわかりません。新羅使の来航に加え、第9回(第10回とも)の遣唐使が734年末に帰ってきたからです。
    • 日本列島は大陸との接触が少ないために病原体が流入せず、結果として免疫がないので、いったん病原菌が入るとエピデミックになりやすい。
    • 6世紀の仏教公伝の時点で、天然痘はすでに日本列島に入っていました。しかし、世代交代やウイルスの変異によって免疫が失われていた可能性があります。ヨーロッパなどの記録によると、同じ感染症が数十年ごとに流行を繰り返していることがわかります。免疫のついた世代が他界し、免疫のない新しい世代が多数派になると、再び大流行が起こるのです。
    • 豌豆瘡が現れた2年後の天平9(737)年、再び疫病が大宰府を襲います。『続日本紀』は、これを「瘡のできる疫病」と表現しています。2年前の豌豆瘡の免疫が残っていたはずですから、これは天然痘によく似た高熱と発疹を伴う別の感染症、おそらく麻疹はしかであったのかもしれません。予防接種が普及したいまでこそ麻疹は子供の病気ですが、かつては死に至る病でした。
    • 「瘡のできる疫病」が猛威を振るいはじめた大宰府。その1年前の天平8(736)年にその地に到着したのが、聖武天皇が新羅に派遣した使節団一行でした。博多湾を出港した一行は新羅に到着しますが、外交使節としての待遇を受けられず、無念の帰国を遂げます。帰国途中の対馬で、遣新羅大使であった阿倍継麻呂あべのつぐまろが病死しています。さらなる発症者を出しながら一行は帰国しますが、ここから都で感染拡大が起こるのです。
    • 『日本書紀』をまとめた舎人親王が逝去し、当時の太政官だいじょうかん――現在の内閣に相当する機関ですが、その“閣僚メンバー”9人のうち藤原4兄弟を含む5人もこの病で亡くなったため、聖武天皇は「政務停止」を命じます。中央官庁のロックダウン、日本政府の機能停止です。これを恐れて都から地方へ逃れた人々のなかにおそらく保菌者がいたのでしょう、流行は全国に拡大していきます。
    • これが天平エピデミックです。当時の日本の人口の25〜35%にあたる100万〜150万人が死んだという推計もありますが、おそらく古代日本における最悪の感染拡大です。
    • 当時の人々はこの災厄について「長屋王の祟り」であり、ゆえに藤原4兄弟が全滅した、と見なしました。そこで、聖武天皇は光明皇后の訴えを聞いて全国に国分寺と国分尼寺を建立させ、さらに国分寺の総本山として東大寺と大仏を、国分尼寺の総本山として法華寺を平城京に建立しました。
 

 

  • 医療供給体制と構造的制約-日本のコロナ病床確保はなぜ困難に直面したのか- March 22, 2023 東京財団政策研究所

    • 政策課題としての医療

      • 政府が国民に対して負っている医療上の責任とは、①医療提供の質保障②医療の経済アクセス保障③医療の物理的アクセス保障、にまとめられる。

    • 制度としての医療

      • 医療は高度な科学技術であり、その理解には高度な知識と技術を要する。専門外に対して閉じているような政策領域を、政治学では「政策共同体(policy community)」と呼ぶ。民主主義のもとでは高い政治的正統性を持つ議員や首長に対しても遮蔽性・自律性が高いため、共同体内で独占的に政策形成がなされていると考えられてきた。ただし、医療を含めた社会保障や公衆衛生など広義の保健福祉政策は、厚生労働省や都道府県庁保健福祉部などの公的機関で一般の行政職によって立案・実施されている。

      • 医学知識は制度設計の前提ではあるが十分条件ではない。しかも医療のアクセス保障に関しては、医学内在的というより(政治的争点になった、社会の安定を図るなど)社会的要因に起因している。

    • 医療制度の形成過程

      • 日本の医療は病院でなく開業医主体であり、また医療費は技術ではなく薬や注射など「モノ」に課金する傾向が長く続いた。

      • わが国では3万人超の保健師が地方政府で公衆衛生業務に従事しており、緻密で高水準な公衆衛生行政は他国に例を見ない。公衆衛生や疾病予防を重視し、地方政府も重要な主体として関与するのが日本の医療体制の特性であるが、それは戦後のGHQ/PHW体制ではなく、むしろ戦中期にその起源を遡ることができる。

      • 本来、社会変動による福祉の社会化が生じた場合には、サービスの拡大・整備で対処すべきだったが、現実には医療がその受け皿となっていった。疾病構造の変化で生じた病院ニーズを、開業医たちが引き受けた。開業医たちは医療の保険化と経済成長によって安定的で大きな利得を得た。

      • 80年代以後に採られた制度改革の多くは、高齢者医療費の抑制を直接の目的としたものだった。

      • 日本の医療は安くて良いのだが、それを支える要因として、地方政府による公衆衛生行政が緻密に展開されていることや医療機関のアクセスが極めて良いことが挙げられる。

    • コロナ禍と日本の医療

      • 制度史的に考えると、そうした日本医療の長所がパンデミックでの脆弱性の原因だといえる。日本では小規模の私立病院が散在しているが、そもそも政府には医療機関の診療体制に対して直接介入する法的権限がない。しかも地方の衛生行政機関である保健所は日常的に病院と関わる業務をしていない。したがって、新型コロナ症の入院調整をしたり患者を診療につなげたりすることは、政府セクターの手に余る任務だった。

      • 160万超の日本の病床の多くは私立病院のものであり、政府の影響力は及ばない。しかも福祉代替的機能で存続してきたそれらの病院は、規模が小さく個室でもなく、新型コロナ症に脆弱な高齢患者を収容している。政府の要請を受け入れる物理的な余地は、どのみちなかったのである。感染抑制に成功しながら、病床供給で異常な逼迫に直面したのは、日本の医療供給体制が歴史的・構造的に有している制約から生じるものだといえる。

      • 府県保健所機能を対物と高度対人に集約し、周産期や高齢者など一般対人保健は市町村へ移管されていった。地方公務員総数は328万人(1994年)から280万人(2022年)へ大幅減少しているが、自治体の保健師は2.5万人(97年)から3.6万人(20年)へ増加している。増分の多くは市町村保健師で、行政改革の制約下でも政府・自治体が市町村保健機能の強化による高齢者保健と医療費適正化に寄せる期待の表れだといえる。

      • 問題は、府県と保健所設置市、そして一般市町村の保健機能の間に一元的な指揮命令系統が存在しないことである。感染症の対処は、高度対人保健機能として保健所に残された。しかしそこで想定されているのは速度が遅く発生も稀少な症例であり、速度が速くコモン・ディジースでもある新型コロナウイルス感染症に保健所が対応するのは困難だった。しかも一般市町村の保健師は感染症制御の行政回路に組み込まれていないので、保健所の逼迫を市町村の応援で乗り切ることはできなかった。地方政府は二系統の保健行政機構を有しながら、相互に冗長性を担保することができなかったが、それは70年代以降の政治変動の帰結として現行の保健機能の切り分けが位置づけられているからである。

    • このように考えると、病床や保健所の逼迫は単にガバナンスや危機管理が欠如していたからではなく、医療機能形成の歴史的構造的制約のもとで発生したものである。
       

  • 道行政、約60年ぶりの機構改革、国土交通省に一元化-新型コロナ問題が飛び火、通常国会で法改正へ 基礎研REPORT(冊子版)3月号[vol.312] 2023年03月07日 ニッセイ基礎研究所

    • コロナ対応で国の主導性を発揮できなかった反省に立ち、岸田文雄政権は感染症に関する国の司令塔機能を強化する方針を表明。この余波を受ける形で、公衆衛生に関する厚生労働省の機構が大幅に見直され、水道行政を国土交通省に移管させる方針が決まりました(水質に関する業務は環境省に移管)。

    • これは「上水道=厚生労働省(旧厚生省)」「下水道=国土交通省(旧建設省)」に分かれていた体制の実質的な一元化を意味しており、約60年ぶりの機構改革になります。つまり、感染症対策の強化が思わぬ形で上下水道行政に飛び火し、機構改革に繋がったと言えます。

    • 上下水道の所管を巡る歴史

      • 開国間もない頃、明治政府はコレラ対策として上下水道の整備に力を入れました。当時、中央政府で上下水道行政を担当していたのは内務省という役所でした。

      • 敗戦後の1947年に占領軍の手で内務省が解体されると、建設省が水道と下水道の工事指導・監督を、厚生省が水道と下水道の事務を担うことになった。

      • その後、経済成長が加速する中、通商産業省(現経済産業省)が工業用水を担当。

      • 上下水道の整備が急がれるようになり、役割分担の「交通整理」が1957年1月に図られ、厚生省が上水道、建設省が下水道、通産省が工業用水を担当する整理になり、今回の機構改革の意味合いとしては、この時以来の約60年ぶりの見直しという位置付けになります。ただ、下水道の終末処理場に関しては、厚生省が引き続き担当。

      • 人口の都市集中が進み、下水道の未整備が顕在化したことで、1967年2月に役割分担が見直された結果、下水道行政が建設省に一元化され、現在に至る役割分担が確定しました。

      • 新型コロナ問題を受け、公衆衛生に関する厚生労働省の機構が感染症対策に特化される形で大幅に再編されることになり、インフラ整備の側面を持つ水道部門が「上下水道行政の一元化」という名目の下、国土交通省に移ることになりました。政府は2023年の通常国会に関連法を改正し、2024年度から新体制に移行させる予定です。

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