社会的合意形成・意思決定・評価マネジメント
[2024年]
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日本には行政の「結果に対する責任(アカウンタビリティ)」を問う仕組みがない 岡 芳明 東京大学名誉教授、前・内閣府原子力委員会委員長2024/10/03 国際環境経済研究所
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日本の長期低迷は省庁の結果責任(アカウンタビリティ)を明らかにする仕組みがない事に起因する
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そのために業界や各種団体の国の省庁の予算や制度への依存が、改められないまま放置される。責任もあいまいになる。これが日本の長期低迷の根本原因と感じるがいかがだろうか。産業の国際競争力の低下、予算膨張による国家財政のひっ迫など、他の多くの日本の課題も行政の結果に対する責任(アカウンタビリティ)を明らかにする仕組みがあれば、改善を図ることが出来るのではないか。
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アカウンタビリティを説明責任と訳すのは誤り アカウンタビリティは「行政庁による担当の政策の説明とその結果に対する責任」のことである
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日本では「説明責任」と言う言葉がよく使われるが、「マネジメント」を「管理」と訳すのと似た、日本特有の誤訳である。
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会計検査院が政策の結果に対する調査権限を持っていないと、アカウンタビリティは明らかにならない
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省庁が行った政策の結果は、調査権限を持った各省庁とは独立な機関(会計検査院、行政監察院とも言う)が調査しないと明らかにならない。
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日本の会計検査院は省庁の政策の結果を調査する権限を与えられていない
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日本の会計検査院は、会計不正の調査の権限を持っているが、各省庁が行った政策の結果がどうであったか(アカウンタビリティ)を明らかにする権限を持っていない。日本では総務省で行政評価が行われている。これは省庁による自己評価である。
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欧米の会計検査院は評価をしない。評価は議会の役割である
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欧米の会計検査院は評価をしない。その報告書は、調査結果を淡々と述べるだけで、評価は述べていない。評価は議会の役割である。議会が評価して、省庁の予算と定員などに反映する。
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アカウンタビリティのためには省庁による政策説明文書の作成と公開が必要である。日本では省庁による担当政策の文書による説明がない
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省庁は国から与えられた予算と権限を用いて政策を実行するのが役割である。省庁は国民にそれぞれの政策を説明する義務がある。政策の説明は、省庁が行った政策の結果を会計検査院が調査するためにも用いられる。日本には省庁による担当政策の文書による説明がない。「White Paper(白書)」は欧米では政策を説明する文書だが、日本では当該年度の行政のアーカイブである。
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アカウンタビリティ確保のための3つの条件
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米国政府のアカウンタビリティは次の3つの条件を満たすことで確保されている。
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1.責任ある人または組織が行った決定や行動についての情報が存在すること(省庁の役割)
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2.その情報を受け、または発見して、それを検討・調査・報告する人や組織が存在すること(会計検査院の役割)
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3.これらの情報に基づき、欠陥を是正する行為が存在すること(連邦議会の役割)
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日本では、アカウンタビリティについて、2と3が注目されているようだが、1が抜けている。
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アカウンタビリティは議会制民主主義の要件
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「活発なオーディツトなきところでは、アカウンタビリティは成立せず、アカウンタビリティが成立していないところでは、デモクラティック・コントロールもありえない」
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これまでに日本でおこなわれた行政改革は行政効率化のための改革であって、アカウンタビリティのための改革ではなかった
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日本にはアカウンタビリティのための行政改革が必要である。
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きちんと書かれた文書がロバスト(頑健)な政策実行のために必要である
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日本の省庁は、政策課題を、外部の委員を含む委員会を開催して検討してきた。議事録や中間とりまとめと題する文書、あるいはパブリックコメントを経てまとめられた文書は存在する。これは伝聞により集約した意見である。意見の背景や根拠が書かれた文書は作成されず、存在しない。根拠を構成する検討結果や当該課題に関する説明・解説も、ほとんどない事が多い。
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日本の大学教員や研究者による解説や論文も、実践的・実証的なデータや考察に基づくものは少なく、学説やその紹介に類するもの、狭い研究分野での分析が多いのではないか?世の中の事柄は一つの学説や狭い分野で説明できるほど簡単ではない。
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日本は、もっと実践的な研究に研究費や人件費を投じるべきである、なお、ここで言う実践的とは、産業界のための研究という意味ではない。まずは欧米がこの分野で積み上げてきた実践を踏まえた資料・解説・書物を勉強し、日本の課題を考えるとよいのではないか。
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皆で決めるとの考えはおかしい。頑健な政策にはならない。責任も不明確になる
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日本では、皆で決めるべきと考えることで頑健な政策が実行できなくなっている。膨大な予算と労力を無駄にしている。
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政策を実行するのは、そのための専門知識を有する公務員である。政策を決めても、それが国民にとって、よい結果を生むような制度が作られ、実行されるとは限らない。アカウンタビリティを問う仕組みがないと、かれらが税金を有効に使って、仕事をしてくれるとは限らない。
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批判を取り入れる仕組みがない組織は劣化する
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行政のアカウンタビリティを機能させて、日本は長期低迷から脱出すべき
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東電福島事故は、原子力推進側が原子力規制側を虜にしたためであると言われた。アカウンタビリティがあれば、防げたはずである。現在、日本で行われている政策評価は、省庁による自己評価である。これは省庁と産業界や関連団体がアカウンタビリティを虜にした状態ではないのか?
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日本ではアカウンタビリティの話を避ける識者が多い印象である。日本の企業や団体の省庁依存は深く浸透している。それだけこの問題は、根が深いとの認識をもって取り組む必要がある。
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[2023年]
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Special Report EBPMの基礎をなす政策の効果検証の入門の入門 2023年9月 1日 独法経済産業研究所
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本稿では、EBPM(特に政策の因果効果(以下では単に「効果」と呼ぶ)を検証すること)に関心のある方々の参考となるように基本的な事項を解説した。
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政策の効果を検証する場合には、当該政策の対象となった人や企業(以下では「介入群」)とならなかった人や企業(以下では「対照群」)を比較するのが基本である。また、効果検証を行うためには数値で示すことができる実際に計測可能な目標の設定が必要になり、このような数値はアウトカムと呼ばれる。適切な比較対象とアウトカムを設定できるかどうかが、信頼できる効果検証を行うための鍵となる。
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行動変容と向社会的意思決定 ⻄村和雄(神⼾⼤学/経済産業研究所) 八木匡(同志社⼤学) 井上寛規(久留米大学) RIETI Discussion Paper Series 23-J-051 2023年12⽉ 独法経済産業研究所
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本稿では、⾏動変容のパターンを決定する要素をアンケート調査への回答を基に抽出し、⾏動変容のパターンと⾏動変容要素との関係性を明らかにする。
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本稿で抽出された⾏動変容要素は、忍耐⼒、2)可塑性、そして 3)受容性である。忍耐⼒は、新たな知識・情報を習得するための努⼒を⾏う⼒を⽰しており、可塑性は⾃主的に⾏動を変え実⾏できる柔軟さ、受容性は、外的な情報を受け⼊れて判断する⼒と解釈している。このような⾏動変容要素が、働き⽅および COVID-19 感染回避⾏動における⾏動変容パターンにどのような影響を与えているかを、アンケート調査を基に分析している。
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分析の結果、働き⽅における⾏動変容においても、感染回避⾏動における⾏動変容においても、忍耐⼒が⾼い⼈々は、⼀般的に多くの⼈々が望ましいと判断する⾏動変容パターンをとるのに対し、受容性が⾼い⼈は忍耐⼒の⾼い⼈とは⼤きく異なる⾏動変容パターンを取ることが分かった。
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また、外⾷のおける 2 年後の感染回避⾏動変化が、⾏動変容要素によってどのように説明されるかを重回帰分析によって分析し、2 年間の変化が⾏動変容要因によってどのように説明できるかを検証している。
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報告 人文・社会科学の研究による社会的インパクト ~事例調査に基づく評価のあり方の検討~ 令和5年(2023年)9月1日 日本学術会議 科学者委員会 研究評価分科会
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人文・社会科学の各学問分野の社会的意義は、例えば言語学・文学は人間の「想像力」や社会を作り出す「創造力」の涵養に寄与し、哲学は「社会デザイン」と「社会批判」を提供する。社会学は社会現象を実証的に明らかにし、問題提起を行い政策へとつなげ、経済学は経済の機能を理論的・実証的に分析し、効率と公正性の向上に貢献する。
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人文・社会科学の研究が生む社会的インパクトは、ヒアリングに基づけば少なくとも13種類のものがある。
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1)社会課題に関する認識の喚起や新たな社会像の提示、
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2)行政府等における政策形成プロセスへの参加を通じた議論の深化への貢献、
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3)具体的な政策立案への寄与、
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4)法制度の整備や司法への貢献、
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5)行政府や産業で必要となる調査手法や調査基盤の深化への貢献、
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6)国際関係の強化の支援、
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7)専門的職業の高度化への寄与、
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8)学校教育の改善への寄与、
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9)市民の思考能力やスキルの向上、
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10)社会や歴史についての市民の理解の醸成、
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11)文化・歴史資料の収集・保全・展示による心の豊かさの涵養や新たな文化の形成、
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12)地域コミュニティのアイデンティティの形成、
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13)新たな産業の形成や商業的効果。
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これらの種類は相互に関連しており、一つの事例が複数に分類される場合も多い。
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人文・社会科学の社会的インパクトは容易に実現されず、測定や評価も難しい。そのため、インパクトの生成プロセスを理解し、中間段階も評価する形成的なアプローチが重要である。
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海外の評価制度で用いられる用語を参照すると、社会的インパクトに関連するのは、以下の 4 つの概念がある:
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「レレバンス(社会的関連性)」、
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「エンゲージメント(学術界と非学術界の連携・協力)」、
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「価値化(学術的成果の社会的価値への転換)」、
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「インパクト(研究活動や成果による影響・効果)」。
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人文・社会科学のインパクトは短期的に明確に測定することは難しいため、上述の 4 つの段階を評価対象とし、研究者や組織の集合的な取組を明確に評価することが重要である。
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[2020年]
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インターネット・コミュニケーション論no.2 松下 慶太 2020年9月21日 19:50 note
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メディアって?
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モバイルメディア・ソーシャルメディア時代の世界観
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「1対1」「1対n」から「n対n」へ
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「つなげる」「並存する」から「重ねる」へ
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「拡張する」「適応する」から「フィットする」へ
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「いつか・どこか」「いつでも・どこでも」から「いま・ここ」へ
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オフライン中心のオンライン経験からオンライン中心のオフライン経験へ
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【2017年】
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社会的な分断と連帯の現代性 正村俊之 特集 2 現代社会における分断と新たな連帯の可能性 ―階層・世代・民族・情報の視点から― 学術の動向 2017年10月号 (公財)日本学術協力財団
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格差が拡大(差異化)するだけでは、人々がバラバラになるだけである。バラバラにされた人々が、相対立する二つ(もしくは少数)のグループに集約(同質化)されたときに分断が起こる。しかも、格差が客観的な差異として存在するのに対して、分断は、意見の対立として主観的な次元で現れてくる。
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現代社会では、世代的・地域的・民族的・階層的な格差が人々の序列的な差異を生み出しているのに対して、その差異化された人々を組織化する手段の一つとなっているのがメディアである。
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19世紀の時代に社会的な凝集性を高める働きを担ったのは思想やイデオロギーであったが、思想やイデオロギーの力が衰退した今日、それらの代替的な役割を担っているのが、インターネットに代表されるメディアである。
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分断と連帯は一見対立的にみえるがそうではなく、連帯を生み出す社会的な凝集力それ自体が分断を引き起こす力になりうる。
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思想やイデオロギーと違ってインターネットは、抽象化や一般化という人間の理性的能力に依拠することなく人々を結節する。その意味では、インターネットは、現代的な凝集性を高める可能性を秘めているが、インターネットが生み出す凝集性は、分断と連帯の両方に開かれている。
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分断と連帯は二律背反的な現象ではなく、複雑にもつれあっている。
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[2008年]